シニンノカゲ:7章part3(F/F)
🕑 Added 2025-09-06 13:59:58 +0000 UTC
3. 西倉山ダークネス
(F/F)
─2022年12月22日木曜日─
"あれ"はもう袋にきっちり入れて、それぞれの鞄の中に忍ばせた。
叶夢の持っていたクーポンのお陰でちょっぴりお得な値段で調達できた。
「いい?絶対…"彼女"の名前は口にしないこと。彼女のことなんて知らないって自分にそう言い聞かせて」
羅那は、夕闇を背に並ぶ仲間たちに向けて念を押すようにそう言った。
もし旧校舎に立ち入ってから藤島小百合のことを考えれば、それだけで彼女に取り憑かれてしまう。
藤島小百合は恐れていた。自分を忘れられることを。
彼女を名を呼ばないのは何よりもの武器だ。
「あとは全部…作戦通りに」
羅那が言うと、仲間たちはゆっくりと頷いた。
虎谷羅那、鉢上乃恵、西原叶夢、滝歌巴、笹木澪の五人の少女の姿が、夕陽の差し込む旧校舎の闇へ溶けていく。
◯
羅那たちが旧校舎に入ってすぐ、玄関ドアはゆっくりと閉まった。
同時に、深い闇が周囲に広がり、旧校舎はあっという間に藤島小百合の要塞となった。
否。正しくは、旧校舎はそのままではあるのだが、羅那たちが彼女の要塞へと招かれた形だ。
藤島小百合は、恐らく相手を選んで死の巣へと誘っていた。
羅那たちのような非力な存在だけならば、旧校舎に立ち入った時点でこのように死の巣へと招き入れ──水羽や真冬がいる場合はすぐには招き入れない。
狡猾で邪悪。怪異としては異質な存在だ。
自分が標的にならないよう立ち回り、生者を誘う。
これ以上、犠牲者は出させない。
羅那は深く息を吸って、先頭を歩き出した。
この死の要塞がどのような構造なのかはいまだに分からない。藤島小百合がここを自由に作り替えられるのか、いくつかのパターンが存在するだけなのか。
いずれにせよ、羅那は数回ここを訪れているが、存在しないはずの地下にはまだ最初に訪れた際の一度しか行っていない。
何かあるなら、彼女がいるなら、現実には存在しない場所だろう。
羅那たちは、とある役割を担っている叶夢と別れて深い闇の漂う地下へと降りた。
そして───。
「みんな。おそかったじゃない」
数日間も行方不明になっていた松山愛維が弾けるような笑顔を羅那たちに向けている。
それは、ここで死霊を見るよりもずっと非現実的な光景だった。
「あ、愛維…?」
乃恵の陰に隠れている歌巴が泣きそうな声を出した。
「ずっとまってたんだよ」
愛維はこの闇でも眩しい笑顔を見せている。
愛維が一歩、近づいてくると羅那たちは一歩、遠かった。
違う。
これは。
「貴女は、誰」
羅那が問う。
「わたしだよ」
愛維は笑顔を浮かべたままだ。
「どうしたのみんな」
愛維がニコニコと微笑みながらまた一歩、近づいてくる。
「ち、違う!」
歌巴が声を上げた。
「愛維はもっとこういう時……情けない顔するもん」
歌巴は愛維を指差して言った。
「あ、愛維は…意外とビビリだから…」
歌巴は震える声でそう行って、また乃恵の後ろに隠れた。
愛維の顔から笑顔が消えた。
「へぇ。そうなんだ」
愛維は、愛維のようなそれは感心したように言った。
「じゃあそうすればよかった」
愛維の口がだらりと弛み、眼球がぐるりと裏返る。
弛んだ肉体が力なく廊下に崩れ落ちた。
うつ伏せに倒れた愛維の肉体はなんだか骨がないみたいにぐにゃぐにゃとしている。
「愛維…」
歌巴が本当に今にも泣き出しそうな声を漏らした。
「愛維…ちゃん…」
羅那は恐る恐る愛維に近づく。
これは、愛維なのか。
羅那が愛維の肩に触れようとしたその時。
びくんと愛維の身体が震え、わっと甲高い鳴き声が響いた。
愛維の裏返った目からは黒い涙が溢れ出している。
泣いているのか。
「ねぇこんな感じ?」
愛維のようなものは、首をぐりんと回転させて羅那を見つめ、あはははと甲高い声で嗤った。
恐怖で崩れ落ちそうになった歌巴を澪が抱く。
「もっと教えてよ。こいつのこと」
愛維のようなものが口が裂けるほどの笑顔を浮かべた時。
愛維のようなものに落ちている深い影から、白い──白い手が勢い良く伸びた。
細くて長い指が羅那の胸ぐらを掴み、ぐいと引き寄せる。
「うわっ」
「羅那っ!」
乃恵が手を伸ばすが、届かない。
忍ばせていた護身用の呪物を取り出す間もなく──羅那は深い闇の奥へと引き摺り込まれてしまった。
◯
闇色の廊下を引きずられているうちにリュックもブレザーも脱げて、羅那はセーター姿になった。
教室に自分が、真っ直ぐに引き摺られているのかどんな向きで引き摺られているのかも分からないまま──身体に遠心力がぐんと掛かったかと思うと、暗い教室にぽっかりと空いた大きな穴に引き摺り込まれた。
浮遊感に襲われ、わっと羅那が声を上げた時にはその身体はぶよぶよとしたものにぶつかっていた。
天井──ぽっかりと空いた大穴は遥か上空である。
暗い。
暗いが、ぼんやりとした燈明のような灯りが周囲を照らしているお陰でこの空間がどれほどの大きさであるかはよく分かる。
広さも天井の高さも体育館ほどある。
この空間を埋め尽くすのは、黒々として柔らかい根っこのようなもの。
まるで特大の黒黴のようである。
それらがそこら中に張り巡らされており、黒黴の根は空間の奥にどっしりと鎮座している巨大で奇妙な物体に繋がっていた。
それはぼうっとした灯りを放っている。
それは心臓のように脈打っている。
ゆっくりと見上げてみれば、その形の異様さがよく分かる。
まるで、女性器と男性器を無理やり接合したような──そんな歪な形状だ。
奇妙な物体には、黒い有刺鉄線のようなものが何重にも巻きつけてある。
「これは…」
羅那は白い息を吐いた。
羅那の眼差しを感じ取ったかのように、奇妙な物体がぶるるんと震え上がった。
ぎゅうぎゅうと有刺鉄線の棘が物体に食い込んで、それはまるで生き物のような悲鳴を上げた。
悲鳴。いや──それはどことなく快楽の滲んだような声だった。
女性器のような物体の裂け目がぱっくりと開き、裂け目を覆う膜が破れ、中からどろどろと汁が溢れ出す。
鼻腔が痛むほど生臭い汁に包まれながら、何かが身体を丸めた状態で流れ出てきた。
胎児のように身体を丸めているそれは、女である。
細くて長い手脚を折りたたみ、小さくうずくまっている。
長い髪は周囲の闇に溶けるほど黒く、肌は闇を拒絶するように白い。
生臭い液体に包まれた女は、三白眼の目をばっくりと開いた。
ぬるぬるとした液体に汚れた裸体の女は、よろりと起き上がり、羅那を見てああと声を漏らした。
藤島小百合だ。
この女が、贖う者を志して自死を選び、そして死してもその野望を叶えるために大勢を嬲り殺した。
羅那の心臓がドクドクと強く早く胸を打ち、羅那に警告を発している。
すぐに立ち去れと。
この女から離れろと。
羅那は拳を握り締め、恐怖心を押し殺そうとするが、拳に上手く力が入らない。
それでも羅那は力を込める。ここで怖気付くわけにはいかない。
指先や爪の先が手のひらに食い込むほど強く、羅那は握り拳を作ってその場にとどまり、液体を浴びてぬらぬらと照り輝く女を見据えた。
「愛維ちゃんをどうしたの。他の…女の子たちも」
羅那が声を絞り出すと、藤島小百合は薄い眉を少し上げた。
恐れを見せない羅那に驚いたようだった。
「うふふ。どうしたと思う?」
「聞いてるのはこっち」
羅那が言うと、藤島小百合は細くて長い人差し指を唇に当て、しーっと囁いた。
「聞こえなくなるよ。みんなの声が」
「みんな…?」
空間に静寂が訪れる。
羅那の耳に、この静寂の奥底に響く耳をくすぐるような騒めきが届く。
それは笑い声だ。
苦しみに満ちた笑い声。
それがあの奇妙な物体から微かに聞こえる。
「一体なにを…」
「協力してもらってるだけ。私がお前みたいな存在になれるように」
「私…」
「お前だけじゃない。お前やその仲間。その周りの人間のように」
「生者ってこと…」
「ああ。そう。そうだよ」
藤島小百合は思い出したかのように言った。
「愉しく笑うという行為は生きている証。そして笑い声はその象徴。それを浴び続ければきっと…這い上がれる。また…そこに」
藤島小百合の三白眼が天を見上げた。そこにあるのは、大穴を塞ぐ闇色の根っこだけだ。
「そしてまた神に許しを乞う」
藤島小百合はそこで表情を弛めた。
「やっぱり…贖う者になろうとしているの?古井戸村五十人殺しの犯人みたいに」
羅那は語気を強めた。
藤島小百合は意外そうな顔をする。
「へぇ。古井戸村の事件を知ってるの?物知りなのね」
そう言って藤島小百合は少しだけくすっと笑う。
「私たち…良いお友達になれたかもしれないね。ちょっと…遅過ぎたけど」
ぴんと枝のように細くて長い人差し指が突き立てられる。
空間を埋める根っこの間から、わらわらと指の形をした長い長い黒い触手が伸びてくる。
羅那は後退りする。
「ど、どうして贖う者になろうとするの?貴女は一体、どんな罪を犯したと言うの?教えて。そうでないと貴女を…救うことは出来ない」
既に救いようのない魂である可能性が高いことは分かっている。
でも、本当にその推理が当たっているのかどうかを確かめる必要がある。
「救いなんて求めていないよ」
藤島小百合はニヤリと口角を上げた。
「求めているのは"悦び"だけ。うふふ…こんなの神様に聞かれたら…いけないね」
藤島小百合が恍惚とした笑みを浮かべた瞬間、羅那の背筋にぞくっと鋭い寒気が駆け抜けた。
やはり。
やはり──藤島小百合は自らの悦びのために贖う者に成ろうとしている。
これまで彼女が手に掛けてきた魂──須崎伽耶たちや多くの失踪者たち、そして彼女自身の魂も全て欲望のための生贄だったのだ。
救いようのない魂。
完全なる邪悪。
それが、彼女だ。
それでも羅那は──。
「私はお前たちのいる世界に這い上がって今度こそやり遂げる」
贖う者に成るには、死者ではなく魂を持つ者でなければならないと学習したのか。
「もう過ちは犯さないよ」
藤島小百合が両手を広げると、指の形をした触手がぬるぬると羅那に伸びてきた。
「無駄だよ」
羅那ははっきりとそう言った。
「うん?」
「死者が生き返るなんて出来ない。例え出来たとしてもそれは元の貴女じゃない。単なる欲望の塊だよ。元に戻るためのピースはもう集まらない。元の貴女を知る人はもう誰もいないんだから。貴女さえもきっと自分のことを分かっていない」
「はぁ?」
藤島小百合の片眉が吊り上がる。
「お前いま…なんて言った?」
切長の目がぎろりと羅那を睨みつける。
びゅんびゅんと指の触手が飛んで来た。
羅那は構えるが──
「うわっ!?ひぃっ!?」
ある指は腋の下に、ある指は腰骨の窪みに打ち込まれ、痺れるようなくすぐったさが捩じ込まれた。
「うわぁっ!やめっ…」
離れようと暴れても、指の触手は的確にくすぐったいポイントだけを突いていく。
「あひゃあああっ」
羅那は情けない声を上げ、どしゃりと崩れ落ちる。
崩れ落ちた羅那にもどすっどすっと容赦なく、脇腹なんかにくすぐったい指圧が浴びせられる。
どすっ!どすっ!
ぐりぐりぐりぐりっ!!
「やっ!?ああああああああああっ!?あははははははははは!?」
起き上がりたくても、指がくすぐったい神経を指圧するたび、力が抜けてうずくまることしか出来ない。
「私の名前を…言ってごらん。知ってるんでしょ」
藤島小百合が見下ろして言った。
「はぁはぁっ…!!」
羅那は首を横に振る。
「へぇ…」
藤島小百合の細長い指が突き立てられ、四つの指触手が羅那を包囲した。
「拒んだら…一斉にこちょこちょするよ?いいの?」
「はぁはぁっそんなのっ…覚悟の上で来たんだからっ…」
「あ、そう」
藤島小百合の冷たい目が羅那を見つめたその瞬間、四つの指の触手が一斉に羅那に襲い掛かり、腋の下や脇腹を捕えて指の腹でクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュ!!っと擦りくすぐった。
「わっ!?うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?あははははははははは!?あはははははははははははは!!?」
暴れずにはいられない猛烈なくすぐったさがワキと脇腹とを襲って羅那はじたばたと脚をバタつかせた。
「ここまで乗り込んで来て…私のことを知らないはずがないよね」
四つの触手にこちょこちょクチュクチュと仕置きされる羅那を眺めながら藤島小百合が首を捻る。
「いひひひひ!?いひははははははは!!しっ知らない!!本当に!!名前もっ…なにもっ!」
羅那は、頭に浮かびかけた彼女の名前を掻き消すようにさらに強く首を横に振る。
「私をあまり怒らせない方が良いよ。本気でくすぐったらお前なんか…数秒で殺せるから」
藤島小百合が脅すように指をうにょらせる。
見ているだけで悶えてしまいそうな指だ。
あの指が、数々の人々をくすぐり嬲り殺してきたのだ。
「知らないものは知らない…なにも!」
羅那が三白眼を見つめて言い放つと、藤島小百合はにんまりと嗤った。
「いいね…お前。そこまで言うならこれからたっぷりと刻み込んであげる。私の…顔も匂いも名前も…ぜんぶぜんぶ刻んでから…殺してあげる」
藤島小百合が小さく手を挙げると、羅那の右足首に指の触手がしゅるしゅると巻きついた。
「うわぁっ!」
「面白いよね動物って…腕が二つ…脚が二つもあるのに、一つでも奪われたら無力になる。ほら逃げてごらん?十数え終わるうちに…あそこの柱まで逃げられたら…解放してあげる」
藤島小百合は細くて長い生白い指で、闇の向こうの柱を指差した。
「でももし出来なかったら…お仕置きね?お仕置きは何がいいかな…考えておくよ」
藤島小百合はそう言いながらも既にその細長い指をこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょと宙でうねらせていた。
くすぐるつもりだろう。
くすぐり殺すつもりだろう。
「ほらいーちにーい…」
羅那は急いで這いつくばりながら柱を目指す。
本当に羅那が柱まで辿り着けたとしても、この怪異が正直に羅那を解放するとは到底思えないが、とにかく距離を取るべきだ。
さぁーん。
よーん。
ぴと。ぴと。ぴと。湿った足音が近づいてくる。
冷たい手が羅那の足首を掴んだかと思うと、ローファーを脱がした。
「嘘っ…!?」
「ごーお。うふふ。こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ…」
藤島小百合の艶やかで硬い爪の感触がしっとりとした足の裏に刻まれていく。
「わっ!?ひゃっ!?ひははははははははははははははははは!?あはははははははははははは!?ちょっと!?」
くすぐった過ぎて足指が丸まって力が抜ける。
進むどころではない。
「ほらほら頑張れ頑張れ〜?」
藤島小百合は、土踏まずを人差し指の爪でこちょこちょと細かく引っ掻く。
尖ったくすぐったさが土踏まずの神経を炙るように刺激する。
「いひひひっ!!?いひひひひひひひひはははははははははははははははははははは!?ひゃははははははははははは!?」
羅那はべちゃりと床に崩れ落ちながら悶え、それでも腕を伸ばして這い続ける。
負けたら…もっと酷い目に遭わされるのは目に見えている。
「あと二秒くらいかなぁ?」
藤島小百合は羅那のソックスを引っ剥がし、素足に剥いた。
「はぁはぁはぁっ!!」
やばい。
羅那が慌てて前へ前へと移動しようとした時。
とんっと硬い爪がぐっと僅かに足裏の生の表皮に食い込むようにセットされ───
「きゅーう」
ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!!!っと削るように爪でくすぐり回した。
「あああああああっ!!?あはははははははは!!!はははははははははははははは!!?ひゃーっっひゃはははははははははははははは!!!」
爪の感触が嫌と言うほど伝わってくるくすぐったさが刻み込まれ、羅那は激しく床を転げ回った。
いくら暴れても、藤島小百合はがっしりと足首を掴んだまま離さず、もう片方の手の指と爪で足裏をゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョと削り続ける。
「えへへへへへへへへっ!!?こんなのっ!!こんなの無理っ!!っっひひひひははははははははははははははは!?あははははははははは!!!」
爪が神経を捕らえたままゴチョゴチョゴチョゴチョと足裏を掻き回り、くすぐったさが羅那の脳を掻き乱していく。
体力がゴリゴリと削られていく。
それでも羅那はなんとか、柱に手を伸ばす。
もう少し。
もう少し。
「ふふふ。いいねぇ…でも…」
藤島小百合は嗤った。
べちんべちんっと乾いた痛みが足裏に走った。
藤島小百合が羅那の足裏を引っ叩いたのだ。
「えっ!?」
痛みが晴れ、じわぁっと神経が剥き出しになったかのような感覚を覚える。
その過敏になった表皮に──ガッと爪が突き立てられ…
ゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショ!!!っと猛烈な速度で足の裏の神経を貪り尽くし始めた。
「あああああああああーっっ!!!!あは!?あはははははははははははははははははははは!!だめっ!!だめだめだめっ!!これっ!!!うわぁぁぁぁあはははははははははははは!?」
全身が、脳が、遺伝子が拒絶するレベルのくすぐったさが足裏に容赦なく注入される。
涙で視界が滲む。
それでもくすぐったさの暴力的刺激はじゅくじゅくと注ぎ込まれ、喉が小刻みに震え始めた。
ゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショ!!!
「あああああああああああああああっっ!!?あははははは!?ははははははははははははははははははは!!!!やっ!!!いやぁぁぁぁああははははははは!!?」
凶悪なくすぐったさが足の裏を襲い続け、羅那は伸ばしていた手を引っ込め、身体を丸めて転げ回った。
羅那は、柱に届く前にへたりと崩れ落ちてしまった。
失格だ。
「残念でしたっ。こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょぉー」
もう勝負はついているのに、藤島小百合は羅那の足首を掴んで足の裏を抱え込むようにし、過敏になった赤い足の裏に爪を這い回らせる。
ゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショ!!!
「えへへへへっ!!?あはははははははははははははははははははははは!!?こっっこんなのっっ!!!っっははははははははははははははははははは!!?」
こんなの理不尽だと言いたくても、くすぐった過ぎて言葉に出来ない。
一秒も味わいたくもない
くすぐったさと爪の感触を味わされ続けて悶えることしか出来ない。
「捕まえた」
「あはははは!!…はっ!!?」
まだ息も整っておらず、
うつ伏せのままの羅那に藤島小百合は覆い被さるようにして腋の下に手を差し込む。
「うっ!?」
両脇に、しっとりとした藤島小百合の手と指と爪の感触がじわりと染みる。
そして。
「まずは…"捕まえたぞ"のこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょぉ〜!」
藤島小百合は細くて長い指をガシガシと曲げ伸ばしして爪の先と指先とで
腋の下の神経を掻きむしった。
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!!
「ぎゃあああああああっ!?あははははははははははは!?あははははははははははははははははははははははは!!?あっ!!!っっははははははははははーっ!?」
藤島小百合の爪と指は腋の下に密集しているくすぐったい神経を的確に捉えたまま、ワシワシと動いて羅那の身体をふにゃふにゃにとろけさせていく。
「こちょばゆいねぇ…私…こちょこちょはとっても巧かったから。ほらほら
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ」
白い指が容赦なく腋の下をこちょこちょこちょこちょと捕食する。
爪の先が、指先がいちいち神経を震え上がらせる。
「ぎゃあはははははははははははははははははははははははは!!?あーっっっははははははははははははははははは!!やめてっ!!!やめっっ…!!ぇへへへへへはははははははは!!!」
指の動きに無駄がない。
何か物を掴むように指を曲げる際の力加減も、爪の食い込ませ加減も全て飛び切りのくすぐったさを味わせるように計算されている。
「ほら諦めてないで逃げようとしなよ。頑張らないと…お仕置きだぞぉ?こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょぉー」
こちょこちょと素早く囁くそのスピードに合わせて、指も素早く滑らかに腋の下を滑る。
「わぁぁぁぁはははははははははははははははははははははははははは!!?はははは!!!はははははははは!!?あっっっははははははは!?」
全身の力を奪うようなくすぐったさが絶え間なく襲い続け、呼吸が全然、追いつかない。
「はぁはぁはぁっ!!けほっ!!こほっ!!」
ようやく腋の下くすぐりから解放されたが、羅那は床にべったりと伏せるように倒れたまま動けない。
「さて…。お前…負けたね…お仕置きは何がいいかなぁ…やっぱり…」
藤島小百合の妙に熱のこもった視線が羅那の身体を舐め回すように走り、ある一点で止まった。
「…お尻。くすぐり殺しとくか」
「はっ!?」
お尻とくすぐり。そのワードを聞いただけで羅那はびくんっと震え上がった。
藤島小百合の白い指が羅那のスカートを摘み、捲り上げる。
「いいこと教えてあげようか。私の名前を言えたら…お仕置き…やめてあげるよ。悪い話じゃないと思うよ?だって…私の指でここやられたらさ…死ぬでしょ?」
藤島小百合は、全ての指の爪の先でふわっと羅那の臀部を撫でた。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
ヌメリを帯びた指先と爪の先が敏感で仕方ない尻の神経を震わせた。
尻に感じた寒気が、頭部にまでぞわぞわと達する。
「ねぇ…頭が良いなら分かるはず。どうするべきか…」
爪がまた、尻に触れる。
「うぅっ!?」
逃げようにも右足首を拘束されているため逃げられない。
不味い。
今は、今できることをやらないといけない。
「はぁはぁっ…そんなに怖いの…」
羅那は言葉による抵抗を選んだ。
「自分のことを忘れられるのが…そんなに怖いの」
こちょこちょっ!!
「ぎゃっ!?」
「まだそんなことを言う元気があったんだ?うふふ。いいね。それくらい元気じゃないと…お仕置きで死んじゃうかも知れないし。これくらい元気なら…本気でやっても死なないか」
藤島小百合は十本の指の先──爪の先をとんっと羅那の剥き出しの尻に着地させた。
「うぅっ!?はぁはぁっ!!世間はっ!貴女がどうして死んだのかも知らない!何を思っていたのかも!だからっ…うわぁぁぁっ!!」
突き立てられた爪がつるりと臀部のスベスベの表面を滑る。
「黙れ。その口は…笑うためにあるんだから。笑え」
藤島小百合の恐ろしき死の指が尻に爪を立てたまま獰猛に暴れ出す。
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャッ!!
腰が抜けそうなくすぐったさが尻に浴びせられる。
「わっ!?だめっ!?あっ!?うわぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!あははははははははは!!!はははははははははは!?そっっこぉっっ!!そこぉぉぉぉっ!!?」
羅那は目から涙をどばどばと溢れ出させ、ぷりぷりとケツを振る。
しかしいくら暴れたところで、尻に吸い付いている爪が余計に尻の表面を滑るだけで逆効果だった。
「私はね…お尻ぺんぺんよりずっとこっちのお尻こちょこちょの方が好き。こっちの方が絶対に苦しいし…絶対にトラウマを植え付けられるから」
藤島小百合はケタケタと嗤いながら十の指を激しくしかし滑らかにワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャ!!!っと暴れさせ、爪の先で尻の神経を貪りくすぐる。
「ああああははははははははははははは!?ははははははははははは!!!やめっ!?だめっ!?あっ!!あはははははははははは!!?」
羅那はどんどんと拳で床を叩いたり、意味もなく悲鳴を混ぜたりしてとにかく尻に刻まれるくすぐったさから意識を逸らそうとする。もちろん、無駄だ。
「私の名前を言え」
藤島小百合は脅すようにさらに指を素早く動かす。
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャ!!
こちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!!
「いひひひひははははははははははははははははははははは!!!あはははははは!?いっっいっっ嫌ぁぁぁっ!!!」
苦しい。苦しい。苦しくて堪らないけれど──犠牲者たちのことを思えばここで折れるわけにはいかない。
「ふふ。悪い子…」
藤島小百合は愉しげに言うと、手からどろりと粘液を分泌させ、それを羅那の敏感な尻に塗り広げる。
「いひぃぃっ!?ひぃひひひひひひひひ!?」
ただでさえ過敏になっている尻にホットオイルのようなヌルヌルを塗り広げられ、羅那はそれだけで悶え暴れる。
「もう一回聞くよ?拒否したら即座に笑い殺すからね?」
くすぐり処刑を可能にする爪が、ヌルヌルの尻に突き立てられる。
「ひぃぃぃっ!!?」
「私の名前を…言いなさい」
藤島小百合の声が、羅那の精神を揺さぶる。
それでも。
羅那は涙を流しながら首を横に振った。
「じゃあ…死ね」
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょっ!!!!
「やっ!?…いやぁぁぁぁぁああああああはははははははははは!!?だめっ!!無理っ!!無理無理無理っっ!!!無理ぃぃぃぃぃ!!!ああああああああああああああああーっ!!?」
さっきよりもさらに滑らかに素早く指が這い回り、爪がより過敏になった神経をくすぐり犯す。
羅那は飛び出しそうなほど大きく目を開いたまま、濁った笑い声を放出する。
「ほら…動かないの」
触手が飛んできて羅那の四肢を完全に拘束する。
「ひっ!?」
「こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょぉー!!」
完全拘束をした状態で、ヌルヌルの尻をヌルヌルの爪でこちょこちょと弄ばれる。
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああっ!!!あっっっ!!!っっははははははははは!!?あはははははははははははは!!?だめっ!?あっ!?くるじっ!?いひひひひひはははは!?」
尻に注がれるくすぐったさが全身に回り、頭がぐわんぐわんと揺れて、視界がぼやけてくる。
「眠らせないよ?」
ぼんやりとした意識に藤島小百合の声が聞こえたかと思うと、尻の割れ目の根元…尾てい骨のあたりに鋭いくすぐったさが走った。
「ぎゃっ!!?」
藤島小百合が人差し指の爪で尾てい骨の真下あたりをこちょりんっと引っ掻いたのだ。
そのたった一撃で羅那は覚醒させられた。
「ふふふ。勝手に寝ちゃう悪い子は…こちょこちょ地獄の刑だ」
藤島小百合は尻の割れ目の根元に爪を密集させる。
「あぁっ!!待ってっ…」
「だーめ」
藤島小百合は邪悪に嗤い、指を踊らせた。
カリカリカリカリ!!
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!
「ひょぇぇええええええええええ!!!?っっへへへへ!!?へへへへへ!?はははははははははははははははははははははは!!?」
羅那は指をわなわな動かしたり、奇声を上げたりして体内に注がれるくすぐったさをなんとか誤魔化そうとする。
尻の弱点を細かな動きでカリカリと引っ掻かれこちょこちょこちょこちょとくすぐられるだけで涙と笑いが止まらない。
「ぎゃははははははははははははははははははははははははははは!!?あはっ!?はぁはぁはぁっ!!あははははは!?ははははは!!?はっっはははははは!!!」
肺と、横隔膜が悲鳴を上げている。
腹筋が痛む。
それでも止まらない。
止まるわけがない。
藤島小百合の指は、羅那の息の根が止まるまで、いや…きっとひとまず精神が壊れるまでくすぐりを続ける。
カリカリカリカリカリカリカリカリ!!
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!!
「ひひひひはははははははははははははははははは!!!はぁはぁはぁはぁっ!!けほっ!!!かはっ!!!っっはは!!はははは!!!はぁはぁっ…はぁっ…!!はぁっ…!!はははははははは!?」
お尻の弱点であるワレメの根元に爪の感触が走ってくすぐったさが注がれるたび、精神に亀裂が入っていくのが分かる。
大粒の汗が目に染みる。
「うふふふ。お前みたいな純粋そうなやつ…汚したくなる…ぐちゃぐちゃに」
いつの間にか羅那に覆い被さっていた藤島小百合がうつ伏せの羅那の耳元で囁く。
藤島小百合は、羅那の首筋を長い舌でじろぉっと舐め上げる。
「んぎぃっ!!?」
これまでとは違うくすぐったさに襲われ、羅那の意識はまたもはっきりと覚醒してしまった。
「ぐちゃぐちゃにしてから殺してあげる」
藤島小百合の唇が、羅那の唇に迫る。
羅那は残る力を振り絞って歯を食いしばった。
「こらこら…」
藤島小百合は腋の下に手を突っ込んでこちょこちょこちょこちょ!!っとこねくり回した。
「あっ!?わっ!?んぉぉぉおお"っ!?」
羅那が口を開いた一瞬の隙を突いて、藤島小百合の長い舌が羅那の口に捩じ込まれる。
──笑って。
藤島小百合は三白眼の目を細め、羅那の口を支配したまま、両腋の下をこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょとくすぐりまくった。
「んぉほほほほほっ!!!っほほほほっ!!?おおおおおおおおっ!!?おほほほほほほほほほっっ!!?んぉぉぉほほほほほ!!!」
四肢は拘束され、口は奪われ、脇はくすぐられ──羅那は無様に笑う。
鼻からしか呼吸が出来ず、酸素はあっという間に足りなくなる。
──こっちへおいで。こっちへ。
藤島小百合の長い舌がこちょこちょと口内をくすぐる。
「んおおおおおおおおお"っ!!!おおおおおおお!!!っっほほほほほほほ!!?おほほほほほほほ!!!!?」
拒絶したいのに、口内に塗り広げられる快楽に飲み込まれていく。
しかしその快楽は脇に注がれるくすぐったさを打ち消してはくれない。
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!
「おおおおおほほほほほほほほほほほほっ!!?ほほほほほほほほほっっ!!!!んぉぉぉぉおおおひひひひ!!?ひひっ!?ひほほほほほほほほほほっっ!!?」
くすぐったさと快楽の間を行ったり来たり。
今にもその激しい往復に羅那の精神は崩壊しそうだった。
「羅那っ!!」
乃恵の声がした。
口内を支配していた舌の感触も、くすぐったさも全てが弾け飛んだ。
「大丈夫!?」
ぼうっとした視界に乃恵の顔が映り込む。
乃恵の顔には、黒い飛沫が飛び散っていた。天井の穴を覆うカビを無理やり破ったのだろうか。
乃恵の後ろには澪と歌巴がそして愛維がいる。
「はぁはぁっ…ありがとう…」
羅那は唾液まみれの口周りを拭う。
「愛維は大丈夫だよ。まだなんか元気ないけど…」
歌巴が愛維を指差して言った。
憑依から解放されたのか。
「あらあら。お友達がいっぱいだねぇ」
乃恵に突き飛ばされたのか、少し離れたところにいた藤島小百合はむくりと起き上がって羅那たちを眺めた。
「うふふ。さーて…悪い子は…誰かな?」
「こんなところまで来てる時点で…みんな悪い子かもね。校則違反だし」
乃恵が苛立ち混じりに言って藤島小百合を睨む。
「あ、そっか。だったら一人一人…嬲り殺してあーげるっ」
藤島小百合がにんまりと嗤う。
「望むところっ…」
乃恵が構える。
「でもお前…厄介そうだからそこにいろ」
藤島小百合が人差し指を立てると、床から手の触手が無数に生え、乃恵の長い手脚を捕まえた。
「あっ!?」
乃恵の顔に焦りが浮かんだときにはもう遅く、四方八方から手が伸びてこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょっ!!っと乃恵の無防備な脇や脇腹、太ももや鼠蹊部なんかをくすぐりまくった。
「うわっ!?くっ!!?くぁぁぁぁあああはははははははははははははははははは!!!あーっっははははははははははははははははははは!!?」
四肢を掴まれ宙に浮かされたまま、無数の手に好き放題くすぐり犯される乃恵。
力の強い彼女でも、ひとたび囚われくすぐられれば無力な存在となる。
「はっち…!」
歌巴が乃恵に駆け寄ろうとするが、床から伸びた無数の手によって阻まれ、悲鳴を上げて逃げ惑う。
羅那は起きあがろうとするが、よろけて上手く力が入らない。
なんとか、計画通りに動かないと。
「あははは!いいねぇお前は!弱いくせに逃げて生き延びようとする姿…大好物」
甲高い笑い声を響かせながら藤島小百合がふわりと宙を舞い、歌巴に襲い掛かる。
「歌巴っ!」
澪が歌巴を突き飛ばす。
「うわぁぁぁっ!!」
藤島小百合の手が、澪に触れる。
ぴとりと触れたヌメヌメの手から菌が感染したように──澪の身体からぞわぞわと無数の手がキノコみたく生えていく。
無数の手は、ミノムシのように澪を包み込んだ。
「澪っ!そんなっ!」
「こちょこちょミノムシの刑だ」
藤島小百合は指をこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょぉーっと蠢かし、澪を飲み込んでいる夥しい数の指を一斉に暴れさせた。
「う"わぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!?あっ!!?あははははははははははははははは!!!やっっ!!?うわぁぁぁぁあああはははははははは!!!」
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょという指先が澪の肉体をくすぐり貪る音と共に、澪の地獄のような叫びが響き渡る。
数千もの指で構成されたこちょこちょミノムシからはかろうじて澪の目元だけが見える。
ほとんど身動きの取れない状態で、数千もの指や爪にこちょこちょされ続けるなど、想像するだけで悶え狂いそうだった。
「澪っ!」
歌巴は涙を流しながら足を折ってへたりと崩れ落ちる。
「頼れる人…いなくなっちゃったねぇ。ほら見てごらん…頼れる友達がこんな目に遭ってるよ?」
藤島小百合が指を鳴らすと、驚いたことにこちょこちょミノムシの中が"見えた"。
透視の能力を得たように、羅那たちからでもこちょこちょミノムシの中がどうなっているのかが鮮明に見える。
数千の指がわらわらと澪に群がり、制服の中に侵入して、腋の下をこちょこちょモゾモゾと貪ったり、乳首を撫で回したり、腹部を細かくこちょこちょこちょこちょして澪を嬲っている。
「ぐへへへへへへへへへへへへへへへっ!!?あへへへへへへ!!!ははははははははは!?くるしっっ!!くるじぃぃっ!!っっひひひひははははははははは!!?」
その動きはまるで指の一本一本ごとに意思があり、神経を喰らっているかのような動きだ。
普段、口数の少ない澪の顔がぐちゃぐちゃに歪んでいる。
指の本数に対して澪のその暴れっぷりは控えめなものだった。
こちょこちょミノムシの中では、暴れたくても暴れられないのだ。
「ぎひひひひははははははははははははははは!!?はは!?はははははははははははははははははははは!?あああははははははははは!!!」
下腹部をモジョモジョくすぐられて咳き込み、脇腹を揉まれて腰をびくつかせ、澪はありとあらゆる方法でくすぐられながらじっくりと炙るようにくすぐり殺されていく。
「あははは!こちょぐったいねぇ!いいねぇ…さてさて…その間に…お友達の目の前でお前を殺しちゃおうかな」
藤島小百合の三白眼が歌巴に向けられた。
「うははははははははははは!?待っで!!うたはにはっっ!!手を出さないっっでぇぇっ!!っっへへへへへへへへ!!?」
指のミノの中に閉じ込められ、地獄を味わされている澪が声を絞り出した。
「お前にはあとで構ってやるから今は笑っておきな。勝手に口挟んだからお仕置き追加ね」
藤島小百合は再び、澪に向けて両手を突き出し、指をこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょと素早く踊らせた。
数千の指の動きがさらに素早く滑らかにそして…テクニシャンに暴れ出した。
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!!
「うああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!?あはは!?はははははははははははははは!?ちょっ!!?もう無理っっ!!もうっっ…!!うああはははははははは!!!」
澪の目が、羅那も見たことのないほど大きく開き、絶望に染まった顔で澪は笑い狂った。
数千の指はどれも動きに無駄がない。
腋の下はしっかりと脇の奥底に爪の先を当ててこちょこちょと引っ掻いているし、横乳は指先で素早く掻くようにくすぐっている。
数千の全ての指がくすぐりマスター並みのテクニックを有しているのだ。
やがてその指どもは澪の首や顔にまで群がり、こちょこちょサワサワサワサワサワサワと神経を撫で始める。
「うああああああっ!?いひひひひっ!?うひひひひひひひっ!!?やぇぇぇぇえへへへへへへ!!?うへへへへへへへへへへっ!?うひょおおおほほほほほほほほ!?」
ゾクゾクとしたくすぐったさを染み込まされ、澪はさらに顔を崩壊させ、唾液を垂らし始めた。
ゾクゾク系のくすぐったさを浴びせられ続けると、表情筋が弛んでああなるのだ。
「うふふ。そろそろ…殺しちゃおっか…お前を」
藤島小百合はくるりとこちょこちょミノムシから背を向け、歌巴に近づいていく。
「ま、負けないからっ…私はっ…私はっ…」
歌巴はよろめき、後退りをしながらも強い口調で言った。
「こっちだよ…名も無き怪異さん」
羅那が言うと、藤島小百合のあの目が再び羅那をとらえた。
羅那はまだ起き上がれていない。
「あ?」
藤島小百合の顔に苛立ちが浮き上がった時、地面から巨大な手がもごっと生え、羅那を握るようにばくんっと包み込んだ。
「お前は何度私を怒らせれば気が済むのかな」
「怒ってるのは、恐れてるから。そうでしょ。貴女は忘れられることを恐れてる。みんな知らないよ…貴女のことなんて」
全ての怪異は忘れられることを恐れている。
特に既に人々の記憶から消え掛かっているこの藤島小百合は。
「私もっ!」
歌巴が声を張り上げた。
遠くで乃恵が、澪が、悶えながらも同調する。
私も。私も。
お前なんか知らない。
「やめろっ…やめろっ!」
藤島小百合は苦しげに頭を抱え、白い指で黒い髪をぐしゃりと掻き乱す。
「やめろぉぉっ!!」
痛みさえ感じるほどの甲高い悲鳴が羅那の頭を貫く。
羅那は目をギュッと閉じた。
痛みが消えた時、周囲には混沌とした霊気が満ちていた。
いる。
"彼女たち"が。
目を開ける前から既に羅那の目には見えていた。
四肢を引き延ばされ惨殺された須崎伽耶だったくね子が。
電話に取り憑かれ黒い触手を司る怪異となった美愛が。
黒い猫の化け物となった春香が。
生首だけになった陽生子が。
水死体のように異常に身体の膨れ上がり巨体となった和真が。
ぐちゃぐちゃとした肉や臓器の詰まった巨大な瓶からミミズのような触手を伸ばしている梨緒と思われる怪異が。
彼女たちが来た。
ここに来て、羅那の心臓は再び恐怖の鼓動を打ち始める。
「歌巴ちゃんっ!今だよ!あれをっ!あれを開けて!」
羅那は叫ぶ。
完全に凍りついている歌巴は羅那の声を聞いてハッとしたように瞬きをし、放り出されていた鞄を掴んで引き寄せ、ファスナーを開けた。
中に入っていた袋を破る。
瞬間。
こんな時でさえ食欲をそそる油の香りが空間に満ちた。
彼女たちの動きが止まった。
だが、和真と梨緒の二人にはやはり効果がない。
二人は"ジョセフ"にあまり通っていなかったのだから当然だ。
「はぁっ!?なにやってんの…」
藤島小百合が顔を歪めた。
「貴女の生きていた時代にはなかったかな。こういうお店って…ジョセフっていうんだけどハンバーガーとかポテト…美味しいんだよ。太るけどね」
羅那はニヤリと笑ってみせた。
「思い出して。須崎伽耶さん。来栖美愛さん。粟野陽生子さん。美雲春香さん」
羅那は恐れることなく、悍ましい姿となった姫咲学園の生徒たちを見た。
人ならざる者となった彼女たちの目にはもう、生きていた頃の面影はない。
それでも、土気色のくね子の顔に、僅かあの記憶の中の須崎伽耶の顔が重なった気がした。
「なにやってんの。お前らはっ私のっしもべだろうがっ!」
藤島小百合が裏返った怒声を上げた。
近くにいた歌巴がうずくまる。
再び、哀れな七不思議の怪異たちが動き出す。
動きを止められた時間が想定より、短い。
まずい。
間に合うのか。
羅那は祈るように目を閉じ、拳を握りしめる。
りんと涼やかな音が響いた。
音は空間に染み込むようにして広がる。
目を開けてみると、須崎伽耶たちの動きが止まっていた。
彼女たちの奥、乃恵が開けたのだろう天井の大きな穴の下に退魔師八田水羽が立っている。
水羽は鈴緒の付いた金色の鈴を揺らしていた。
水羽の背後には、特殊事案心霊対策課の刑事寒川が目を閉じて水羽の背中に両手を当てていた。
その傍には息を切らしている叶夢がいる。
叶夢は見つけたのだ。
この世界への"出入り口"を。
そして成功した。退魔師と刑事の二人をこの世界に入れることを。
「クソども…」
藤島小百合の顔に憎悪の皺が刻まれた。