擽怨─Reverse─#1-2(F/F)
🕑 Added 2025-03-14 13:11:45 +0000 UTC
2. T市商店街の怪異
──遭遇編──
(F/F)
ねぇ知ってる?
この街に伝わる都市伝説のこと。
幽霊なんて、自分から会いに行こうと思わないと遭遇しないなんて思ってるでしょ。
違うよ。
この世界にはね、会いたくなくても目の前に現れちゃうあちらの世界の住人がいるの。
このT市にも、いる。
私たちの住む世界と、あちらの世界は、ほんのちょっとのキッカケで交わってしまうのだから。
◯
皆が部活とか、部活という名の仲良し会とか、アルバイトに向かう中、"影切 萌(かげきりもえ)"は、寂れた改札口を通り抜けた。
ここは、萌の自宅近くの最寄駅とは真反対の場所にある。
今日は"ちょうど"授業が七限まであったから、萌がその駅"真福駅(まふくえき)"についた頃には空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。
──逢魔時(おうまがとき)ってやつだね。
ほんのり赤いオレンジ色の空を見上げ、萌は僅かに微笑む。
少し翡翠色の浮いた黒髪のボブヘア。白い肌。大きな目。細い手脚。
萌はごく普通の女子高生である。
だが──異常なくらいの心霊・オカルト好きだ。
手首には定期購読している雑誌の通販で購入したいかがわしいパワーストーンのブレスレットをはめ、筆箱に至ってはUFOが牛をアブダクションしている光景をモチーフにしたものを用い、肩にかけているスクールバッグには大量のオバケのぬいぐるみがぶら下がっている。
休み時間はネットと雑誌を漁って少しでも多くの怪奇情報を収集し、帰ってからも──こうして噂の検証に向かうのが萌の日常であった。
周りからどれだけ奇怪な目を向けられようとも、
萌のこの趣味が揺らぐことはない。
他の皆が部活とか部活みたいな集まりとか、アルバイトで青春を味わうように、オカルトも心霊も萌には不可欠な要素であった。
萌はインターネットや本に溢れている心霊やオカルト情報をただ浴びることだけでは満足できなくなっていた。
──自分の身体で心霊を浴びたい。
近頃、萌はそう思うようになっている。
一年前、そう遠く無い別の町で大きな怪奇事件が起きたという。
それを解決したのはなんと小学生たちだというのだが真相は定かではない。
本当に、近くの町でそんな事件があったなら──自分もその当事者になりたい。
そんな思いが芽生え、萌をこうして突き動かしている。
だから萌は学校帰りにこの手来市真福にある商店街までやってきたのだ。
【〜T市のうわさ①〜】
商店街の知らない子
・T市(手来市)のとある商店街において、元々呉服屋さんだった建物を曲がると子供の霊が現れ、
「痛い方と痛くない方どっちが好きか」を問われる。
・「痛く無い方」を選ぶと子供の霊に"いたずら"をされる。「痛い方」を選ぶとどうなるかは不明。
インターネットで軽く調べると分かることはその程度のことだ。
これだけでは、怪異との遭遇は難しい。
だから萌はさらに深く追求した。実際にこの真福に住む人たちに聞き込み調査まで行った。
萌は、商店街の子供の霊と遭遇する方法を得た。
これで駄目なら、この商店街の子供の怪異の噂はデタラメだ。そう言い切れるほど、情報には自信があった。
小さなスーパー、青果店、ひと昔前の本しか置いてなさそうな本屋、その並びに馴染まぬファストフード店の立ち並ぶアーケード街の一番奥──そこに、一軒の建物がある。
ガラスドアの向こうは薄暗く、ひと気はない。
ここが噂の以前は呉服屋だった建物だ。
このアーケード街の終わりにある建物を"ある作法と共に"左に折れると、怪異の待つ世界へと行ける──はずだ。
ここに来ると突然、ひと気がなくなるから不思議だ。
いやそもそも、怪異な噂の立つ場所というのはこういう場所ばかりなのだけれど。
ここに来て、いよいよ怪異を前にして萌は足がすくんでいた。
いざ試すとなると、怖い。
──何年か前にね、あそこで行方不明になった子がいたんだよ。小学生くらいだったかなぁ。
聞き込みの途中で出会った真福に住んで長い老人はそう言っていた。
──それからその子の母親かなんかもね、すぐにいなくなっちゃったんだよね。
そうも言っていた。
数年前に消えた親子と怪異との関係は──。
好奇心が恐怖を凌駕したその一瞬の隙をついて萌は動いた。
呉服屋を前に、萌はくるりと踵を返し、すぐに立ち止まる。
それから息を吸い込み──。
──夕立やんで、神もここには来られまい。
そう歌いながら、ゆっくりとゆっくりと、後ろ向きに歩き始める。
後ろ歩きのままでよろけそながら、呉服屋の角を曲がる。
期待と不安。それから恐怖。逃げてしまいたいという感情がごちゃ混ぜになる。
萌は立ち止まった。
萌はアスファルトを踏む自身の革靴の音がやけに大きく響くことに気づいた。
まばらに聞こえていた足音が、遠くに聞こえていた車の音も自転車の音も、止んでいる。
キツい香り──線香のような香り──が鼻を突いた。
萌は辺りを見渡した。
小さな違和感が、萌の視界に染み落ちた。
違和感の染みが広がっていく。
ここは、萌も知らない通りだ。
呉服屋を曲がった先のこの通りには、焼肉屋と居酒屋が並んでいるはずだ。
だけどここには、ない。
代わりに、随分と古そうな家屋が並んでいる。
電柱には、人の写真がプリントされた紙がいくつもびっしりと貼り付けられている。
妙に印刷が粗くてどんな顔かは分からない。
──これを貼った人は、誰かを探していたのか。
呑気にそんなことを考える。
萌は自分が来た道を振り返った。
呉服屋だったはずの建物は、豆腐屋の看板の建てられた建物に変わっている。
知らない光景ばかりが、萌の視界に次々と飛び込んでくる。
ここは、どこだ。
萌は空を見上げた。
空は、乱雑に塗り広げたようなべったりとしたオレンジ色に染まっていた。
さっきまで見ていたほんのりと赤みのある空とは随分違う。
萌はその空から目が離せなかった。
否──離したくなかった。
視線を前方に戻したくなかった。
拳を握りしめるでもなく、指を伸ばすでもない半端な状態の手の内側には、べっしょりと汗が滲んでいる。
風の音さえしない静かなこの知らない通りに、萌の心臓の鼓動が大きく響く。
口の中から唾液が干上がる。
萌は今──
──何かに視られている。
前方から伸びている視線が萌の胸の辺りを突き刺し、抉っている。
視線の元がぺちゃりと湿った足音を立てなければ、萌はそのまま空を見上げていただろう。
吸い込んだ渇いた息が萌の喉を下る。
オレンジ色の通りに落ちているそのモノクロームの"染み"は、じっと萌を見つめていた。
どこまでも続くこの知らない通りにぽつんと立っているその子供に色はない。
肌は真白く、髪は真黒い。
まるでモノクロームだ。
「ねえ」
モノクロの子供は声を発した。
女の子の声に聞こえる。
「痛いのと、痛くないのどっちが好き?」
モノクロがそう問いかけた瞬間、萌はようやくそこで我に帰った。
自分が何故ここにいるのか。何故ここに来たのかを思い出した。
──そうだ。自分はここに来るために、あの白黒の子供を見るためにここに来たんだ。あの質問を聞くために──。
途端に、違和感の染みであったモノクロの子供が恐怖の対象へと萌の中で形を変えた。
道のど真ん中に立っているあれは、単なる違和感ではない。
あれは──
──怪異か。
「ねえ」
モノクロの子供は素足で地べたをぺたぺた踏んでもう一度言った。
「痛いのと痛くないのどっちが好き?」
さっきよりもより鮮明に声が聞こえたかと思うと、モノクロは萌のすぐ目の前にいた。
ほんの僅か、萌が瞬きをしたその間に、である。
白い顔は男の子にも女の子にも見える。髪の毛は男の子にしては長いし、女の子にしては少し短い。
恐怖で喉が震えて声が出ない。
「教えてくれないと痛い方にしちゃうよ」
そのコは笑った。
口の中もまた、真黒く、奥が見えない。
「待って!」
萌はようやく掠れた声を上げた。
「痛くない方っ。痛くない方がっ…」
その方が、良い。はずだ。
痛い方を選んだ人の結末は──明らかになっていないのだから。
「ふーん。そっかぁ」
モノクロの子は不自然に口角を吊り上げてニタリと笑うと、枝のように細くて長い白指をくねくねさせた。
指が、奇妙に長い。常人よりも関節が一つ分くらい多いように思う。
その指を見ていると萌は、妙に厭な感じがした。
「みんなそっちを選ぶんだ」
鼓膜を撫でるような声でそう言って、モノクロの子はぺたぺたと萌の周りを歩き始める。
萌は、そのコを目で追っていた。目を離すのが、怖かった。
「ひゃっ!?」
萌は横っ腹に強烈な不快感を覚えて飛び上がった。
横っ腹に走ったゾワゾワした感覚は萌の神経を震わせて、口角を吊り上げさせた。
くすぐったかった。
理解が追いつかなかったが、萌はいま、くすぐったかったのだ。
白い子供は冷や汗をたらたらかいている萌を見上げてくすくす笑っている。
その不気味な子供を見れば見るほどに、違和感が見つかっていく。
手の大きさや指の長さのみならず、腕も妙に長い。
そしてなにより──黒い瞳が白眼を侵食するほど大きい。
この子供は一体何者か。
怪異の正体を知ることこそが、恐怖を振り払うことに繋がる。そんなことを以前萌は聞いたことがあった。
「あ、あのさ──」
萌は勇気を振り絞って声を出す。
しかしそこで、こちょこちょ!っとまた脇腹をくすぐられた。
「うわぁっ!!」
股を閉じ、肩をぴくんと震わせた。
そのコはあははと無邪気な笑い声をあげる。
つんっつんっ。
左右の横っ腹を交互に指先で突っつかれる。
「ちょっと!ひゃっ!?うわっ!?あはは!?やめてっ!?」
びくびくと身体を左右にぴくつかせ、萌は手を振り回した。
「お姉ちゃんが選んだ道だよ」
そのコは振り向いて萌を見た。笑顔だったが、それはおよそ子供が作れるような無邪気な笑顔ではなかった。
「はぁはぁっ…へっ?」
「痛くない…くすぐったぁい地獄は…お姉ちゃんが選んだんだよ」
「く、くすぐったいって…まさかっ…」
じっとりと脂汗が額から滲み出る。
「お姉ちゃんのこと、死ぬほどこちょこちょしてあげるね」
そのコは長い長い指を、うにょりうにょりとうねらせた。
萌は小さく悲鳴を上げ、
へなへな力の抜けた足に鞭を打ち、よろよろと駆け出した。
けらけらけらけら。耳元であのコの笑い声がする。
「お姉ちゃんが自分で選んだ道だよ?逃げられるわけないでしょ」
あのコからは遠ざかっているはずなのに、あの声が耳にこびりついて繰り返し響き続ける。
走っても走っても、この知らない街から抜け出せない。
知らないコの声から逃げられない。
絶望と恐怖に支配された萌の身体は言うことを聞かず、足がもつれて萌は転んだ。
「お姉ちゃん。捕まえた」
倒れた萌を、あのコが見下ろしていた。
「はぁはぁっ!!待って…待って…」
萌は慌てて手を振り回した。
そのコは暴れる萌の手に自身の手を重ね、指を曲げて萌の手を軽々と飲み込んだ。
「誰もここからは逃げられないよ。ここから出る方法を知ってるのは、"くすぐり様"だけ」
そのコは奇妙なことを言った。
「はぁはぁっ…へっ?」
そのコはきゅっと手首を捻り、手を掴んでいる萌の身体を仰向けにひっくり返した。
「うわっ!?」
視界がぐわんと回転し、
萌の腰のあたりにそのコは座り込んだ。
子供は思えぬほど重い。
「ちょっと…!そこっ…どいてっ…」
腰に座る奇妙なコに向かって萌が手を伸ばした次の瞬間──。
そのコの手に揃う異様に長い指が花のようにふわりと開き、音もなく萌の腹のあたりに吸い付くように着地した。
ぴとり。
その指先から怖気を濃縮したような冷たさが皮膚に染み込んでくる。
「あッ──」
萌の腰が浮く。
萌は理解した。
このコの手を見た時感じた、あの厭な感じは、このコの指や爪がめちゃくちゃ──
──くすぐったそうだったからだ。
知らないコは、頬が歪むほどニヤリと笑いこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!!っと長い指を踊らせた。
「ぶぶぶっ!!?ぷっ!!?ぶっっっ!!?ぶっはははははははははははははははははは!!?あはは!?くっっくすぐったっ!!?ぃっ!?っっひひひひははははははーっ!!!」
蛇のように柔らかく、細くて長い指が、萌の白い制服シャツをくしゃくしゃにしながらお腹を掻き回す。
丸く尖った指先が薄いシャツを貫通してお腹の神経をこちょこちょ毟るくすぐったさを、我慢することなど不可能だった。
萌は脚をじったばった暴れさせて叫んだ。萌はくすぐられるのが大嫌いなのだ。
暴れても暴れても、そのコを退かすことが出来ない。
まるで岩だ。
「お姉ちゃん。嬉しい?嬉しいよね。痛くないことされてるんだもんね」
そのコは口角を上げてニマニマしながら萌のお腹をこしょばしまくる。
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!
「っはははははははははははははははははっ!!?はーっっははははははははははは!!?ちょっ!?やめっ!?うわははははははははははははは!!?」
恐怖とそれをも飲み込むこそばゆさがお腹を掻き回し、萌は何度もそのコの手を掴もうとする。
しかしその度、そのコは萌が弱い下腹部をめちゃくそにゴショゴショゴショゴショ掻き回した。
「ひっ!?いやぁぁぁぁぁああああああああああああああああっ!!?あははははは!?あははははははははははははっ!!?」
手を伸ばしたお仕置きだと言わんばかりのその下腹部こちょこちょを受けると、萌は堪らず手を引っ込めて悶えてしまう。
「ねぇねぇお姉ちゃん。どこがさぁ一番くすぐったいの?」
甘えるような声でそのコは聞いた。
こちょこちょ嫌いの萌がそれを教えるわけにはいかない。ましてこんな──存在相手に。
「それはっっ!!ひひひ!?っっははははははははははははははははははははっ!!?ははははははははははははははははははははははは!!!」
「へぇ。教えてくれないんだぁ」
そのコはわざとらしくガッカリしたように言うと、指先で萌の身体を歩くようにしてこちょこちょ…こちょこちょと両手を移動させてくる。
恐怖の両手が迫ってくるその先にあるのは、腋の下だ。
くすぐりで真っ先に狙われる部位。そして萌が絶対に触れられたくない場所。
恐怖とくすぐったさで頭がおかしくなりそうだが、それでも萌は──。
「はぁはぁっ!!やっと…捕まえたっ!!」
萌は力を振り絞り、腋の下に迫ってきていた白い手の手首を掴んだ。
手首は驚くほど冷たい。
恐怖からか、手首を握る手に力が入らない。
「私はっ…帰るのっ…!」
萌は息を切らしながらそう言った。その前向きな言葉を吐くと、なんだか身体と心を蝕む邪悪が晴れる気がした。
そのコは澱んだ大きな黒目で、自身の手首を掴む萌の手を見つめていた。
「悪いこと。したね」
そのコはぼつりと言った。
大人の女のような声で。
「離して」
そのコは言う。
萌は一瞬、その威圧的な声に屈して手を離しそうになるが、すぐに我に帰って手首を強く握る。
「離さない!…退いてくれるまでは…」
萌は震える声でそう言い放った。
そのコは何も言わない。表情も変わらない。
まるで、物に話しかけているようなそんな気分だ。
「悪い子」
そのコは小さく唇を動かした。
萌の掴んでいる手首──その先にある大きな手。そして長い指。
その長い指が、ゆっくりと折れ曲がっては伸びてを繰り返し、こちょこちょと蠢き始める。
「うっ!?…くくっ!?なっ…!?なんっっでっ!?っっくくくっ!?」
触れられているわけでもないのに、こちょこちょと蠢く指を見ているだけで身体がこちょばゆい。
目を逸らしたいのに、逸せない。
萌の目は、こちょこちょこちょこちょ蠢くそのコの指に釘付けだ。
「あはは!?ひひひひひひひひひひひ!!?」
宙をこそばすその指がくすぐったくて、手首を掴む力が抜けていく。
「お姉ちゃんを笑い転がすなんて簡単なんだよ。触らなくても良いんだから…こうしてこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょしてあげれば良いんだから」
そのコは、指一本触れられてもいないのに腰をくねらせ肩を震わせ悶えている萌を見てけらけらと笑いながら指をこちょこちょこちょこちょこちょこちょ動かし続けた。
「ちょっ!?やめてっっ!!?っっひひ!?こちょこちょっ言わないでぇっ!!っっへへへへはははははははっ!!?」
そのコの放つこちょこちょという言葉が、萌の鼓膜と神経をくすぐる。
「こちょこちょが厭なの?こちょこちょ。こちょこちょ。こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ」
そのコは面白がってこちょこちょと歌い始める。
「きひっっ!!?きひひひひひひひはははははははははははははははっ!!?」
こちょこちょボイスと指のこちょこちょムーブメントの合わせ技に、萌は腰が抜けそうになった。
「いいから早くお姉ちゃんの弱点…教えてよ。その方が効率良いから。その方が早く──くすぐり様に捧げられるんだから」
「あひひひひひ!!?そのっくすぐりっっ様ってっ…」
「お姉ちゃんは知らなくて良いことだよ。お姉ちゃんはただ──」
知らぬ間に力が完全に抜けていた萌の手から、そのコの手がするりと抜ける。
「──笑ってれば良いから」
そのコの大きな両手がガッシリと萌の肋骨を掴む。
「くぁっ!!?」
肋骨の隙間に、そのコの細い指がグリッと食い込んだ。
「肋骨の三段目…ここかな」
そのコは、細い指先を肋骨の隙間にはめこんだあと、指先で神経を捉えた。
濃厚なくすぐったさが肋骨に突き刺さり、萌の息が止まる。
「ほら…笑って」
そのコは長い指を器用に曲げ伸ばしし、指先でゴリゴリゴリゴリゴリゴリッと肋骨の奥の神経をほぐすようにくすぐった。
「ぐっ!!?ぐぁぁぁぁあああああああああああああああああっ!!?あっっ!!?あはは!?あはははははははははははははははは!?ちょっ!?だめっ!?無理ぃぃぃぃっ!!!」
強烈なくすぐったさが炸裂し、萌の背筋がピンと伸び、萌はそのまま転がった。
跳ねるように暴れても、脚をじたばたさせても、細い指が肋の隙間にぐいぐいと食い込んできてこちょこちょと神経を弄ぶ。
「ここ効くよね」
肋骨の隙間の狭い箇所をくすぐるために存在しているような細い指先がゴリゴリグリグリ神経を貪る。
「ぎゃぁぁぁぁあああああああああああっ!!?やめっ!!?っっははははははははははははははははははははっ!!?苦しっ!!?いひぃぃぃぃっっ!!?」
肋骨の隙間に指先が食い込んでグリグリ犯してくるたび、萌はその鋭利な刺激に甲高い声を搾り上げて悶える。
「うーんそれともここ?」
そのコは大きな手で萌の脇腹を掴み、脇腹の窪んだところに親指を押し当てた。
「ひっ!!?」
脇腹に親指が触れたそれだけで──萌の背筋に悪寒が走った。
「どうかな?」
そのコはまるで大人のような力でグリグリグリグリと脇腹の神経の溜まりをえぐった。
「かっ!!?かかかかかかかっ!!?かはははははははははははははは!!?ぐぇっ!!?うぇっ!!?い"ぁぁぁぁああああああああああああああーっ!!!」
左脇腹を揉まれれば右に跳ね、右脇腹をグリグリされれば左に跳ねる。
「同時にやられたら──どうなるの?」
そのコは無邪気な笑みを見せ、邪悪に言うと両脇腹を同時にグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリと親指で揉み殺した。
「はえっ!!?はえええええええええええっ!!?あああああああああああああああ!!?あはは!?あはははは!!?あははははははははははははははははーっ!!?」
逃げ場のない両サイド脇腹同時揉みに萌は髪を乱し、舌を垂らして唾液をぶちまけた。
「ふふふ。お姉ちゃんさぁ弱いところだらけじゃん。でもさ、一番弱いのは──」
そのコの両手が、萌のあの箇所に伸びる。
「──ここでしょ」
「ぎあっ!!?」
腋の下。
そこに、そのコの両手がずるりと滑り込んだ。
「はぅっっ!!?」
萌は腋を閉じたがもう遅い。
そのコの手──悪魔のこちょこちょ指は腋の下に侵入している。
「弱いところ…みぃつけた」
細くて長い指がワシッと折れ曲がって、指先と爪の先とが腋の下に食い込む。
「ぎっっ!!?やめっっ!!?待ってっ!!お願いっっだからっっ!!」
既に体力は限界だ。
これ以上こちょこちょされるだけでも恐ろしいのに、腋の下をこちょこちょされ続けたら──。
萌の脳裏に"発狂"と"死"の文字がよぎる。
「やめて欲しいの?」
そのコはキョトンとしたように眉を上げた。
「はぁはぁっ!!お願い!!お願いっ!」
萌は必死になって声を出し、首を縦に振る。
萌が、ようやくこの存在相手に言葉が通じた気になったその直後──。
「駄目だよお姉ちゃん」
そのコは満面の笑みを浮かべてそう言い放った。
「だってお姉ちゃん。さっき逃げようとしたでしょ。悪い子だ。悪い子だ。悪い子だ」
指先に力がこもる。
「悪い子には、お仕置きなんだ」
「ひっ──!?」
そのコの指が、こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!!っと腋の下を食べるように暴れ始めた。
怒涛のくすぐったさが腋の下で爆発する。
「わっ!!?うわぁぁぁぁぁああああああああああああああああっ!!?ダメっ!!駄目っ!!駄目そこはぁぁぁぁっ!!!あっ!!?あっ!!?ああああああああああああああはははははははははははは!?ひゃひゃひゃっ!!?ひゃっ!?ひゃはっ!?はははははははーっ!!?」
脳みそと神経とがパンクしそうなほどのくすぐったさに萌は腋を閉じたままのけったいなポーズのまま地面を転げ回った。
もちろん、どれだけ転げ回っても悪魔の指からは逃げられない。
「最初から分かってたよ。ここが弱いって。ねぇもっと笑って。お願い」
そのコは物をねだるような甘い声を出し、赤くほてった萌の頬にひんやり冷たい白い頬をずりずりと頬擦りしながら腋の下をくすぐり犯す。
「ぎゃははははははははははははっ!!!もう限界っ!!限界っ!!ごめんなさぃっ!!!ごめんなさぃぃぃぃっ!!!っっへははははははは!?ひゃーっっははははははははははははは!!?」
腋を這い回る細い指のこちょこちょテクニックは尋常ではない。
爪の先でカリカリ引っ掻いたかと思えば、指先でミゾをクチュクチュほじってきたり、指の腹で擦ったりしてくる。
この指は、恐怖のくすぐり殺しの指だ。
「ほぉらもっともっと…笑って笑って笑って笑って…手放しちゃえ」
両手がズクリとさらに腋の下に食い込み、腋の下の深いミゾの底をこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょと爪でくすぐった。
「ぎょぇぇぇええええええええええええええっ!!?うわぁぁぁぁあははははははははははははははははははははははははははは!!?許してっっ!!許してっっ!!許してぇぇぇぇぇーっ!!!」
腋の下の一番深いところの薄い表皮を、爪の先が絶妙なタッチでカリカリこちょこちょと嬲っていく。
まるで、じっくりと炙るように──。
涙で視界が滲む。
耳鳴りがする。
もう、このまま身を任せれば良い。このまま死んでしまっても──。そう思った。