【F/F】伝説の女スパイが消えた日#1
🕑 Added 2025-04-16 00:46:53 +0000 UTC
伝説の女スパイが消えた日
(FF/F)
その夜は、女スパイの一生の中で最も長い夜だった。
◯
その女が腕の中で完全に動かなくなるまで、女はたっぷりの薬品を染み込ませた布を口に当て続けた。
女はしばらくもがいていたが、やがて大きく目を向いたまま動かなくなった。
熱くなっていた顔や耳からみるみるうちに血の気が引いて行くのを確認し、女は布をしまう。
「私よ。目的は達成した。処理をお願い」
女──"Kz"はそれだけを告げて部屋を出る。
黒い髪。すらりと長い手脚。妖艶な美貌。彼女の名を"荒井 香純"だと知る者は多いが、もう一つの名前を知る者はそう多くない。
産業スパイ"Kz(ケイズ)"。
それが香純のもう一つの名前だ。
その名を裏社会で知らぬ者はいない。
だが素顔は一切、割れていない。
Kzは人心掌握術に長け、口も巧く、さらには抜群の身体能力を有している最強の女スパイだ。
幻のスパイ養成所において、史上たった四人しか成し得なかった地獄の試練──あらゆる拷問に耐える訓練──を耐え抜いたと言われている。
彼女にとっては人を騙すことなど息をするのと同じこと。仕事のためなら、人を殺すことに何の躊躇もない。
例え──さっきの女のように罪の無い人間が相手でも──。
Kzこと香純の現在の仕事は、国内巨大企業の一つ"ジスコーポレーション"への潜入だ。
香純はこの会社に潜入して一年が経ち、順調に情報を抜き取ることに成功していた。
持ち前の能力の高さですぐに社長側近にまで成り上がり、重要な情報も思いのままに手に入れてきた。
しかし、時には重役を拷問せねば手に入らない情報もある。
だからさっき一人を監禁し拷問した末、口封じに始末した。
後始末は香純を雇う連中がしてくれる。
香純のスパイ活動は、いつも通り順調だった。
だが本当に重要なのはここからだ。これが上手くいけば──現在のジスコーポレーションは崩壊するし、香純の仕事も終わる。
最後の仕事において厄介なのは──二匹の"大蛇"だ。
"赤蛇と青蛇"。常に社長のそばにいる二人の女。
二人とも長身で中性的な美女だ。
二人の役職は秘書である。
だがどうもただの秘書ではないという。
噂によれば、かつてジスコーポレーションに潜入したとある女スパイは、二人の王子様のようにも見える中性的美貌にやられ、ボロを出し、その結果…"暗い部屋"に連れ込まれて鳴くまで情報を搾り取られたという。
その後、スパイがどうなったかを知る者はいない。
早い話、二匹の蛇はこの企業の"情報の番人"なのだという。
スパイがいれば、決して表沙汰には出来ないような方法で炙って苦しめる。
香純が唯一、警戒しているのが二人の大蛇だった。
香純は何度か二人と話している。確かにあの二人はどんなに細かいところにも目を向けており、あの二人の前では香純でさえ気が抜けない。
だが、香純があの二人にボロを出すことはなかった。
香純はプロ中のプロ…伝説の女スパイである。
それに、香純には同性に惹かれる趣味などないし、あの二人相手にうっかり口を滑らすこともなかった。
もしあの二人が敵に回ったなら、始末するまでだ。
仮に捕まっても──情報を吐くことはない。
香純はそう思い込んでいた。
◯
2025年4月9日
──午前1時──
薄暗い部屋に灯っている青い光の前に、香純はいる。
香純はKzとして、社長室のさらに奥──秘密の部屋に潜入していた。
秘密のPCに隠された最高機密を、差し込んだ外部メモリに流し込んでいく。
機密情報をメモリに流し込む間、香純はPC内部の最高機密ファイルその中身を閲覧していた。
ファイルの中身はほとんどが極秘の取引履歴や顧客名簿で、香純が見たところで面白いものではなかった。
それでも、これらの情報が漏れたらそれだけでこの巨大企業が転覆するレベルのものなのだが──。
──なんだこれは?
とあるファイルに香純の目が止まった。
"危機管理"
そう題のついたファイルだった。
何か重要なパスワードとかそういったものが隠されているのかもしれない。
香純は興味本位でそのファイルを開いた。
だが──。
ーーーーーーー
結崎 香奈美→お楽しみ部屋へ
山本 結菜→お楽しみ部屋へ
ーーーーーーー
ファイルの中身は人名とよく分からない言葉が連ねてあるだけだった。
これも、自分にとっては大したファイルではないのか。
ファイルを閉じようとした時、香純はふとファイルに連ねてある人名の一つに目を向けた。
山本結菜。
この名前に香純は覚えがある。
山本結菜という女は、少し前にスパイ活動がバレて極秘裏に粛清された女スパイではなかったか。
ならばこの、"お楽しみ部屋"というのは何かの隠語──さしずめ、粛清するための部屋か。
ファイルにはまだ続きがある。
香純がカーソルを操作してファイルの一番下を表示すると──。
荒井 香純→お楽しみ部屋行き。
香純の心臓が大きく胸を打った。
「へぇ。そうやって抜き取るんだ」
耳元で低い女の声がした。
慌てて振り向いた香純の首に、ひんやり冷たくて少し乾いた皮膚の感触が走る。
白くて大きな手。そこに生え揃う触手みたいな細くて長い指が香純の首を掴んでいる。
厭な刺激が首にじわじわと染み込んできて、香純は首を窄めながらその不気味な手の主を見上げた。
180cmの長身。青い髪。切長の目。
こいつは──青蛇だ。
香純は太ももにある護身用ナイフにそっと手を添える。
「その手…離した方が身のためよ?」
香純は冷静さを装って言った。
「そうかな。そっちこそ…あまり抵抗しない方が良いと思うよ」
青蛇が余裕の表情でそう返したその時。
鈍くて重い一撃が、香純の横っ腹に捩じ込まれた。
瞬発的に横っ腹に捩じ込まれたその刺激は、香純に嫌悪感を抱かせそして…筋力を弛緩させた。
身体が崩れ落ちそうになるのを、香純はなんとか持ち堪える。
さっきの一撃は青蛇によるものではない。
つまり。間違いなく既に
──二人いる。
「大人しく降伏しなよ…女スパイくん」
暗闇から現れたもう一人の女──美しく染められた赤い髪の赤蛇が言った。
青蛇ほどではないが長身で170cmほどの背丈がある。
「すると思う?」
香純はナイフを抜いた。薄闇に差し込む月明かりに銀色のナイフが反射する。
「降参しないと…"マッサージ"で制圧しないといけなくなるよ」
赤蛇がニコニコ笑って両手の指を曲げ伸ばしした。手は大きく指も長いが、青蛇のような細さはない。
本当にマッサージ師のような手だ。
「制圧なんて出来るとでも?」
香純は制圧用ナイフ──刃先に強力な麻酔を塗り込んだもの──を容赦なく突き出した。
これまで実戦において失敗などしたことのない香純の一撃を──青蛇は容易く防いだ。
香純の手首が、青蛇の手に掴まれ、細長い指に巻きつけられる。
まさか止められると思っていなかった香純はつい目を見開いてしまう。
「悪い子だね」
青蛇はくすっと笑うと、掴んでいる香純の手首…その下の前腕部をつぅーっと人差し指の爪の先でなぞり下ろした。
「ひぃっ!?」
爪の先端の硬くてツルツルした感触が前腕部をなぞり下ろし、ぞわぞわっとした厭な刺激が走る。
首筋にふわふわと鳥肌が立つ。
ナイフを握る手からふにゃふにゃ力が抜けていく。
「あ"っ!?」
脇腹にまた厭な感触が捩じ込まれて香純の身体が波打つ。
背後から脇腹をモミッと揉み込まれたのだ。
──赤蛇か。
「はーい。もう一発ね」
背後の赤蛇がそう言った直後、がっしりと脇腹が捕まえられ、モミモミモミモミッ!!っと揉み込まれた。
「ぎゃっ!?」
身体から完全に力が抜け、からんとナイフが落ちる。
「しまっ──」
香純がナイフを拾おうとすると、青蛇がするりと背後に回り込んだ。
青蛇が、香純の右腕を掴み、さらに大きな手で香純の口を塞ぐ。
「んむぅっ!?」
青蛇のしっとりとした手のひらから香る強烈な薬品の匂いが鼻腔に飛び込んでくる。
さっきの赤蛇の"ふざけた攻撃"によって力が抜けたままなのか暴れても暴れても、青蛇の人力拘束からは逃れられない。
「怯えなくても大丈夫。殺さないから。君も分かってるでしょ。そう簡単に──死なせてくれないってさ。ねぇ…赤蛇」
青蛇は妖艶な目つきで赤蛇を見た。
「勿論っ。さぁてお客様…マッサージのお時間ですよー?当店自慢のオリジナルマッサージは…悶絶必死情け無用の特別仕様となっておりまぁす」
赤蛇が長い指をワシワシと曲げ伸ばししながらその手を近づけてくる。
黒く塗られた爪がキラキラとPCから伸びる光を反射する。
逃げられない状況で香純はいかにして自分を襲う刺激に抵抗するかを模索していた。
マッサージとは何か。
さっきの嫌悪感まみれの刺激。
あれがマッサージか。
だったらこれはまさか──。
「ん"っ!!?」
香純がマッサージの正体まで辿り着いた時、赤蛇の白い手が香純の引き締まった脇腹を掴んだ。
白い指は瞬時に脇腹の触られたくない箇所に陣取り、指先に力を込める。
「それではお客様…ごゆっくり」
指がバラバラと動き、グニョグニョと脇腹の筋肉と神経を揉みほぐす。
「んんんんんんっ!!?んひひ!?んひひひひ!!?んひぃぃぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!?」
脇腹にみっちりと走っている敏感な神経が丸っこい指先によってほろほろにほぐされ、くすぐったい刺激が炸裂する。
香純には分からない。理解できない。
どうしてくすぐりをされているのか。
なぜくすぐりなのか。
何故。何故。何故。
そもそもくすぐりに強い方でもない香純がこんな不意打ちのくすぐりを我慢できるはずもなく、香純はどんどんと青蛇の手のひらに染み込んだ薬品を吸ってしまう。
赤蛇は、青蛇の大きな手のひらの中に悶え声を漏らし、目を歪め、細い身体をぐねぐねさせて苦しんでいる香純を満足げに見つめながら…両手を骨盤の辺りに移動させる。
骨盤の窪んだところに親指が添えられた時、香純は背筋に寒気を感じた。
──そこはっ!
直後、赤蛇の親指が骨盤の窪んだところにグイグイと食い込み、グリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリ!!!っと神経を抉った。
「ぶほっ!!?おほほっ!?おほほほほほほほっ!!?ほほほほほほほほほほほっ!?けほっ!?かはっ!?っははははははははははは!!?うへへへへへへへ!!?」
骨盤の窪みにある神経の溜まりを親指で容赦なくグリグリとくすぐられ、香純の腰から力が抜け、鼻水が垂れる。
骨盤グリグリマッサージにより、香純はヘナヘナと崩れ落ちるが、それでもなお、赤蛇はグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリと骨盤のこちょぐったいポイントを抉り続ける。
「ぶおほほほほほほほっ!!?お"っ!?おっ!!?おおお!!?おほほほほほほほほほほほほほほほっ!!?かはっ!?こほっ!こほっ!!!」
薬品の甘ったるい匂いが鼻腔から脳内までもを侵食して──香純の意識がその匂いによって薄まっていく。
「じゃあ…また後でね」
青蛇は耳元で囁いて香純の頬にキスをした。
その瞬間、香純は意識を失った。
◯
目覚めた香純を待っていたのは、最悪の展開であった。
衣服や武器は全て剥ぎ取られ、全裸に剥かれた香純は分娩台のような椅子に股と腋を開いた格好で拘束されている。
無様に拘束された己の姿は、真正面の壁を埋め尽くす鏡面にしっかりと映し出されている。
「やっと尻尾を出したね」
ムカつく声が言った。
このジスコーポレーション代表取締役社長である
"冴藤 美(さえふじみゆり)"の声だ。
金色の髪に色っぽい肌。
社長というよりどちらかというとどこかの社長の愛人という表現がピッタリのエロ女だ。
「その口ぶりだと…最初から私の正体に気づいていたように聞こえるけど?強がることないんじゃない?」
香純は口端を上げた。
最悪の展開だが、ゲームオーバーではない。
いつこういう時が訪れても良いように、香純は地獄のような訓練に耐えて来たのだ。
顔を水に浸されようと、爪を剥がされようと、皮膚を炙られようと──口を割ることはない。
「私の神経を逆撫でしようとしている場合?自分の心配をした方が良いと思うよ」
美は脚を組み直した。むっちりとした魅惑的な肉付きの太ももだ。
「ご心配なく。こんなことをしても意味がないってこと…そっちもよく分かっているんじゃない?」
「そんなことないよ。むしろ──」
──これしかないんだから。
美はそう言って立ち上がった。
無防備な状態で、他者に近づかれるとつい、構えてしまう。
無論、今の香純は構えることなど出来ないのだが。
「ねぇ香純ちゃん。この状態で最もされたくないことって…なに?」
「貴女の顔を見続けることかしらね」
香純は言って、また不敵に笑ってやる。
「そう?本当にそうなの?」
美が首を傾げ、ゆっくりと近づいてくる。
「本当に?」
「しつこいわよ」
「本当に…これじゃなくって?」
突然、美の手がすうっと伸びて来て──
──こちょこちょ!!
「ひゃぅっ!!?」
硬くてツルツルとした爪の嫌な感触が、香純の開かれたまま固定された腋の下の表皮に走った。
その気持ち悪い刺激に、つい香純は声を漏らしてしまう。
「な、なにやって…」
美が一体、何をしたのか理解できなかった。
「ごめんごめん。ちょっとしたイタズラのつもりだったんだけどもしかして香純ちゃん…」
美が、香純の顔を覗き込む。
ムカつくほど、華やかな香りが舞う。
「こちょこちょされるのに弱い?」
どくりと心臓が嫌な音を立てて鼓動した。
「いや別に…」
即答で否定してしまう。
──この嫌な予感は。
「小さい頃にね…」
美がカツカツと足音を立て、香純を拘束する分娩台型拘束台の周りを歩き始める。
「とってもやんちゃな女の子がいた。その子は、先生がどれだけ叱っても、時には暴力を使って怒っても決して悪さをやめなかった。だけどある日突然現れた女の先生が、こちょこちょでその悪い子にお仕置きをした。あれね…殴られたり、蹴られたり、怒鳴られたりするよりもずっと効くの。その子が顔を真っ赤にして笑い叫び続けても、華奢な手で非力に先生の身体を叩き続けても、足でじたばた地面を踏みつけても、先生は絶対にこちょこちょをやめなかった。ずーっとずーっとこちょこちょし続けた。やがて息も出来なくなって、頭の中がこちょぐったいでいっぱいになる…涙が出て、鼻水も出て…最後にはオシッコも出て…ふにゃとろにとろけちゃう」
美はにっこりと微笑みながら懐かしげにそう語った。
「これをね…"こちょこちょくすぐり拷問"って言うんだよ」
美はその手を前に突き出し、香純の目の前で指をこちょこちょ踊らせた。
無駄に長い指だ。
「へ、へぇ…子供にやる分には良いかもね」
こちょこちょは嫌いだ。
じゃれあいだろうと、されると殺してやりたくなる。
「ううん…大人にやるから…面白いんだよ香純ちゃん」
美がそう言った時、香純は背後に気配を感じた。
気配のする方へ視線を向けると、背後に香純を挟むようにして青蛇と赤蛇が立っていた。
二人はうっすらと笑みを浮かべ、そのしなやかな大きな手とすらりと長い指で香純の剥き出しの肩や腕をスリスリと撫で回した。
「な、なにをっ…」
他人の生の手に皮膚を撫でられるのが、気持ち悪くて──くすぐったい。
「楽しもうね香純ちゃん」
赤蛇が、香純の二の腕を揉みながら言った。
「大丈夫。私たち…女の子を扱うのにはとっても慣れてるから」
青蛇が、香純の頬にキスをする。
「こ、こんなこと…正気っ!?」
「スパイさんってみーんな…拷問の訓練を積んでるからね…でもこのこちょこちょ地獄に耐えられた子は一人もいない。洗いざらいぜーんぶ…吐いてもらうからね」
美は、椅子に座って脚を組む。
赤蛇と青蛇は、片方の手で二の腕を掴んで押さえ、もう片方の手の指をうにょうにょとさせながら──開かれたまま固定された腋の下に近づけていく。
青蛇の筋張った細長い指と、赤蛇のマッサージの上手そうな白くて長い指が、両サイドから迫り来る。
香純の背筋に寒気が走る。
こんな訓練は、していない。
二人の指は、腋の下に触れるか触れないかのところでこちょこちょと蠢き続けている。
「や、やるならっ…やればっ…無駄だと…分かるんじゃない?」
香純は、ウニョウニョこちょこちょ蠢く触手みたいな二人の指から目を逸らして言った。
「香純ちゃん。貴女の…本当の名前は?」
美が問う。
拷問が、始まった。
「本当?なんのことか…」
香純は、ふっと笑って見せた。
拒めばどうなるかくらい分かっていたけれど──。
「やれ」
美が低い声で言ったその直後、青蛇と赤蛇の長い指の先──爪の先がふわりと腋の下に触れた。