絶望の王国(キングダム)
🕑 Added 2022-03-14 14:09:35 +0000 UTC
私の名はエリザベータ・シャルフ。
中央アジアにある小国の王女だ。
中央アジアの小国とは言ってもカスピ海沿岸にある私の国は豊富な石油資源を持ち、国民達はゆとりある生活をして平和な日々を過ごしていた。
私も王家の人間として国民にとっていい王女であろうと努めたし、国王である父からもその心掛けを忘れてはいけないと常々聞かされていた。
それに対して国民は私を敬愛の眼差しで見てくれた。
独立以来、私達の王家は富を独占することなく国民に平等に配分している。
王家も国民もお互いに信頼して、この穏やかな日々がこれからも続くだろう。
そう信じて疑わなかった。
そう、あの日までは……
忘れもしない我が国の独立記念日。
巨大な連邦国家が崩壊して、騎馬民族の部族長だった私の祖父が王位について以来、毎年盛大に祝われていた。
私はいつも通り、王宮で公務の準備を行っていた。
王女が独立記念日に行う公務とは国民に対してのスピーチだ。
王宮を背に水の広場と呼ばれる場所で私は壇上に立ってスピーチをする準備をしたその時だった。
ドォォン!!
いきなり爆音が聞こえたと思い、後ろの王宮を見ると壁が崩れ落ちていた。
それに続いて銃声が聞こえ、我が国の軍隊が使っている戦車と軍服を来た軍人達が広場に侵入してきた。
護衛もいたものの、完全武装した軍人達には対抗出来るはずもなく、1人残らず射殺されてしまった。
あまりのことに呆然としていると、軍人達の指揮官が私の元に拳銃を持ったまま近づいてきた。
「エリザベータ王女、貴女を不正蓄財と我が国の国民に対する人権抑圧の罪状で逮捕します。」
感情が籠もらない無機質な声質でそう告げる指揮官。
「何なんですか、一体!?こんなことして許されると思って……んむっ!?」
言葉を言い終わらないうちに私の口と鼻を何かが塞いだ。
ガーゼのような布を顔に押し当てられた。
「んむ〜っ!!ん〜~っ!!」
顔を振っても抵抗しても屈強な軍人に女の私が敵うはずもなく、押さえつけられている うちに甘い臭いが鼻を突いて、眠気が私を襲う。
「んぐっ……」
私に嗅がされているのはおそらく麻酔だ。
そう思ってさらに抵抗を激しくするが、それが却って睡魔を誘発する。
(もう……ダメ……私……どうなっちゃうの…)
薄れていく意識の中で私はこれから自分がどうなるのかを考えながら重くなった瞼を閉じた。
それから数日後……
「んんっ!!んぐうっ!!」
今の私は半壊した王宮の一室に監禁されていた。
私を逮捕した首謀者は軍部の有力者ラヒル将軍。
以前から軍事費の削減する政策をとっていた国王である私の父や現政権とは対立していた人物。
彼はその現状に不満を持ち、クーデターを起こしたのだ。
当然、反対する者もおり、市民や一部の軍人達はクーデターに反対して抵抗している。
私の両親や兄弟も国外に脱出していて、国際社会からの助力を求めているらしい。
しかし、国際社会も天然資源の利権やらで軍事援助は難しく、軍部と反対勢力との衝突は激しくなるばかりだ。
そして、私はというとペットのように首輪を繋がれ、手には金属製の手錠が嵌められていた。
顔の下半分には自殺防止と防声機能を持つ分厚いマスクが着けられている。
突起物をこれでもかと口の中に入れられ、喋れない屈辱と息苦しさが私を襲う。
「ううっ……んむうっ……」
半壊した王宮の一室に監禁され、人質として交渉のカードにされてしまっている私。
今の自分が置かれた境遇への悲しさや悔しさに自然と涙が流れる。
王宮の外では相変わらず、銃声や爆発音が聞こえる。
軍部と反対勢力との衝突は収まる気配がないのだ。
「んんっ……んうっ……」
私の目から流れた涙がマスクを伝う。
私は平和だった我が国家が死と破壊の災禍の中で崩壊していくのを自由なき身体で見守るしかなかった。