淫らな島での恋のはじまり
🕑 Added 2024-09-27 12:03:22 +0000 UTC
20XX年・日本
この国にはゲイだけの島がある。
もとは同性愛者の大富豪が買い取った無人島らしく、いまでは選ばれたゲイだけがそこで暮らすことができるらしい。
そんなわけで、詳細な場所は誰にも知らされていない。
SNSで鍛えた筋肉や逞しいちんぽ、いやらしいセックスのハメ撮りを惜しげもなく拡散することで、ゲイたちはお呼びの声がかかるのを待っている。
島の主の目に留まった者だけが、その島への切符を手にすることができるという都市伝説めいた噂話があるのだ。
ぼくは平凡な男で、筋肉も人並みでしかないし、ちんこも別に大きくもない。セックスに至っては童貞だ。
マッチングアプリや発展場もなんだか怖くて、忌避しているうちに30歳になってしまった。
バイト先のコンビニで、短髪の筋肉質な二人の男が肩を組んでコンドームを買って行くのを会計しながら、「いいなあ」なんて胸中でひそかにつぶやき、今日も一日中が終わった。
家に帰ると、ポストに郵便が入っていた。
真っ黒な封筒だった。宛名も差出人も書かれていなかった。
不審に思いながら開くと、一枚の紙がひらりと床に落ちた。
『明日午前五時お迎えにあがります G.I』
G.Iというイニシャルを見てぼくは驚いたよ
それはGay Islandの頭文字。ゲイだけの集められた島を指すスラングとしてネットで有名なものだったから。
でも、なぜそんなものがぼくの家に?
きっとイタズラだろう。そう考えて、ぼくはシャワーも浴びずに寝床にもぐりこんだ。ひどく疲れていた。最低賃金のアルバイトは、週7のフルタイムで働かなければ生活していくことができない。華やかなゲイライフなんて自分には縁のないもの。そう思いながらすこし寂しい気持ちで眠りに落ちた。
明け方、トイレに行きたくて目が覚めた。
カーテンもしていない窓から、朝焼けの薄紫の光がさしこんでいた。
寝床から這い上がり時計を見ると、午前4時50分だった。
トン、トン、トン。
唐突に玄関の扉が叩かれて、ぼくは「うわあ」と驚いて飛び上がった。
こんな時間に誰だ? そう思うと同時に、ぼくは昨夜の封筒を思い出した。
ドアスコープから外を見た。サングラスをかけて、黒いスーツを着た、体格のいい男が立っていた。
ぼくは誘い込まれるようにドアを開けた。スーツの男と向かい合った。
「大嶋様ですね」
スーツの男はサングラスのせいで表情が読めなかった。
ぼくは小さく頷いた。それが精一杯だった。
「こちらへどうぞ」
アパートの階段を音もなく男が降りていく。
パジャマ代わりのスウェットとティーシャツ姿でサンダルをつっかけて、ぼくはそのあとにつづいた。
アパートのそばには真っ黒なリムジンが停まっていた。寝癖のついたぼくの冴えない顔が反射してボディに映し出されていた。
「お乗りください」
スーツの男がドアを開けた。ぼくはおとなしく車に乗り込んだ。
そこまでして、部屋に財布もスマホも置いてきたことを思い出した。
「あの」
口を開いた瞬間、プシュっと音がしてなにかスプレーのようなものをかけられた。
思わず反射的に目をつぶった。
そこからあとの記憶はない。
目を覚ますと港にいた。
スーツの男に揺り起こされて、ぼくは自分が船のなかにいるのに気づいた。
「到着しました」
すでに陽は高くのぼっていた。昼過ぎにはなっているだろう。
「あの、バイト先に欠勤の電話したいんですけど……」
ぼくはおずおずと口を開いた。まだなんだかわけがわからなかった。
「その必要はありません」スーツの男は顔色ひとつ変えずに答えた。「大嶋様はこの先永遠にこの島で暮らされるのですから」
ぼくはその言葉の意味がわからなかった。
でも本来なら混乱したりしなければいけないだろう場面なのに、ああ、もう週7日出勤をしなくていいんだ、という安堵が胸に広がっていった。
おそらくこれは夢だった。そうだ、夢に違いない。目が覚めたらいつものアパートで、また死んだみたいに労働を続ける毎日が待っているだろう。
ならば、覚めるまでせいぜい満喫させてもらおうじゃないか。
ぼくは男に手を取られて船を降りた。
エスコートするみたいに手を取られて、それもなかなかかっこいい男にそんなことをされて、なんだか胸がときめいた。
港に降り立ったぼくを迎えたのは、セックスしている3人の男たちだった。
一人はめちゃくちゃかっこよかった。あとの二人は、なんていうかモブキャラっぽかった――ぼくもひとのこと言えないけど。
南の島らしい温かい風のなかで、日に焼けた褐色の肌の男たちが絡み合っている。
「あんっ!あんっ!あんっ!あんっ!♡」
ぼくに負けず劣らずのモブ顔の男が甲高い声で喘いでいた。ちんこは硬く勃起し、ブルンブルンと揺れている。
「おらっ!おまえのなかに追加で種付するぞ!」
モブを掘ってるイケメンが雄叫びのような声でそう言った。エロマンガの世界みたいだと思った。
「きてえっ!マサノブの精子全部欲しいっ!」
モブが啼いている。こうしてみると多少なりともエロく見えるからフシギだ。補正がかかるのだろうか。
もう一人のモブはイケメンの乳首に舌を這わせている。まるでそこから濃厚なミルクでも出ているかのように。
「ああっ!イクっ!イクっ!イクゥ!!♡♡」
掘られてるモブが一際高い声で喘いだ。ちんこの先端からトコロテンで精液が勢いよく飛び出して撒き散らされ、埠頭のアスファルトにギラギラと怪しくきらめいた。
あっけに取られて固まっているぼくを尻目に、スーツの男は冷静な調子で解説を始めた。
「この島ではホモセックスが推奨されているのです。住人たちは毎日何十回もホモセックスをします。島の主は城からその様子をご覧になっているのです」
スーツの男の指さすほうには、ゲームで見たことがあるような立派な西洋式の城が山の上に建立されていた。
「なぜ、島の主はこんなことを?」
ぼくは尋ねた。尋ねない方が無理があると思う。だって、はっきり言って意味不明だし、常軌を逸している。
「主は稀代の腐男子だったと言われています」
スーツの男はつづけた。
「自身は性行為に耐えられないほどの病弱な体を持ち、それでもなおBL漫画のなかの恋愛やセックスに憧れ、いつか自分もと考えていました」
よく耳をすますと、島中から男の喘ぎ声が鳴り響いていた。スーツの男の言葉は嘘ではないらしい。ここではセックスが挨拶よりも手軽なコミュニケーションになっているのだ。
「そして主はあるとき、巨万の富を手にしたのです。運用していた資産の偶然の産物でした。主は病を治し、体を鍛え、自分のためのパラダイスをこの島につくりあげたのです」
「詳しいんですね」
「ええ、まあ」
スーツの男は言葉を濁した。「それよりも大嶋様」ぼくは男の顔を見た。「あなたも今日からこの島の住人です。さっそくセックスをしていただかなくてはなりません」
ぼくはおののいた。童貞の身には刺激が強すぎたのだ。
「でも、そんなこと言われてもどうしたらいいかわかりません」
うろたえながらぼくは答えた。
「しかし、セックスはこの島の義務です。その義務を果たせないのであれば、大嶋様には即刻ここから立ち去っていただかなければなりません」
そんな。ぼくはショックを受けた。夢の中でまでそんな半端に現実くさいことを言わないでほしかった。
「よろしければ…」黙り込むぼくにスーツの男はつづけた。「私がお相手いたしましょうか?」
ぼくはときめきを覚えた。実はちょっとこの男が好みだったのだ。
「よろしく…お願いします…」
恥入りながらぼくは答えた。男は口元を微笑ませてぼくを抱き寄せてきた。「優しくいたします」
「ああっ!ああっ!変になるっ!ぼくはじめてなのに!なんでぇ!?♡♡♡」
ぼくの肛門をスーツを脱いだ男の指が縦横無尽に拡げていた。男の体は筋肉質で、チラリと見えたちんこはとても大きいようだった。
「この島には催淫作用のある花が大量に植えられていますので、どなたでもそうなりますよ。どうか恥ずかしがらずに」
男の指遣いに翻弄されながらぼくは何度目かわからない潮を噴いてしまった。
くったりと力が抜けて肩で息をするぼくを、男が手繰り寄せるように抱き寄せた。
「挿れます」
ズンっと衝撃が走り、ぼくのはじめてのセックスがはじまるのがわかった。痛みはなかった。催淫作用のある花とやらのせいか、目まぐるしいほどの快感だけがあった。
「あああああっっっ!♡♡♡♡♡」
ぼくは自分でも恥ずかしくなるような喘ぎ声をあげて触れてもいないちんこから精子を発射してしまった。
「は、恥ずかしい…」
体をくねらせて逃れようとするぼくを男は許さなかった。
「恥ずかしがらないで」男はぼくの耳元で囁いた。「かわいいよ」
そのあとは高速ピストン。ぼくは淫らに声をあげて涙を流しながら男のテクニックに翻弄された。途中で島の男たちが僕らに近寄ってきた。手を出そうとしてくる男がいると、スーツの男は「この方はまだ新入りですので」と牽制してぼくを守ってくれた。
いつしか月がのぼっていた。夜になってもまだ、島は淫乱な空気で満ちていた。
ぼくは海沿いのコテージのベッドに寝かされ、スーツの男の腕枕で横たわっていた。
「夢みたいだ」
ぼくはもうこれが夢ではないことを理解していた。こんなに生々しい夢があるはずがなかった。
「夢じゃないよ」
いつしか敬語の抜けたスーツの男がぼくの額にキスをした。
「もう一回するか?」
「うん…したいけど、初めてだったし、なんだか眠いかも…ごめん」
「いいよ。気にしないで。明日もまたたくさんしような」
「うん…なんでだろ。あなただけがいいな。他の人とはしたくない気持ち。明日はずっとここでしない?」
「いいよ。おまえの好きなようにするよ」
ぼくは男に抱かれて眠りに落ちた。はじめてのセックス――それも10連戦以上に疲れきっていて、朝まで目を覚ますことはなかった。
だから、ぼくは男がその後にどこかに電話していたのを知らなかった。そもそも、この島で電話を使用できるのは城に住む主とその関係者だけなのだということも知らなかった。
「まーた、新しいの捕まえてきたの?」
電話の向こうから呆れたような声がしている。
「仕方ないだろう。かわいかったんだ」
「それはどうでもいいけどさ。運命の相手なんているわけないんだからそろそろ諦めたら?」
「いや、今度は本物だと思う。おれ以外としたがらないんだ」
「へえ…花の香りを嗅いでもそうなの。じゃあ今までの子たちとはちがうかもね」
「だろう!?」
「わかったわかった。それより早く帰ってきてよ。X国の大統領からも催促の電話入ってたよ」
「悪いが明日はおれは仕事をする気は一切ないぞ」
「あのねえ、あんたの肩にこの島の全住人の生活がかかってるんだから責任感を持ってよ。主様」
「わかってる。明日にはこいつにも全部話して城に一緒に連れて帰るよ」
男がぼくの頭を撫でるのを感じた気がした。
聞こえていた会話が夢のものなのか、それとも現実のものなのか。
このときのぼくはまだ知らない。