球児の卒業
🕑 Added 2024-08-28 13:23:05 +0000 UTC
甲子園が終わった。
しかしおれたちの夏はその数ヶ月前に終わっていた。
予選一回戦敗退。バスですこしの場所にある地元の野球場の砂を集めるなんて真似はするはずもなく、おれたちは帰りのバスに乗って学校へと帰った。
「昨日の試合観た?」
同じクラスの武田に朝声をかけた。夏休みだが受験生になったおれたちはほぼ毎日講習を受けるために登校していた。
「観なかった」
「なんで? やっぱ悔しさがよみがえるとか?」
「いや、昨日どんだけシコれるかトライしててさ」
「は?」
おれのあきれ声に弁明するように武田は身振り手振りを交えながら喋りはじめた。
「いや、人間の性欲が一番強いのって17歳の時なんだってさ。このあとは下降していくだけらしいんだよ」
グラフを指でたどるように、右下がりの線を空中に描きながら武田は熱弁した。
「じゃあ、いまのおれが人生で最高にちんぽが最強ってことじゃん?そんならどこまで1日にシコれるかチャレンジしたくなって」
「何回できたの?」
「6回目までは出てきたけど、7回目はなんかもう水みたいのしか出てこなくなってやめた」
人生最高記録が7回。これが多いのか少ないのかおれにはわからない。おれたちは童貞だったし、セックスの経験もないからオナニーとセックスで射精できる回数が違うかどうかもわからなかった。
そのとき、最初の講習の数学を担当する数学教師が入ってきた。
「ほら、おまえら席につけ」
教室内で立っているのはおれと武田だけだった。ほかは全員椅子に座って問題集やらなんやらを広げている。
「おまえらだけだぞ。いつまで受験モードに切り替えられないんだよ」
数学教師は苦笑するように言った。
「さーせん」
おれたちは席についた。
すると、教室のドアがふたたび開かれた。野球部顧問の岩野先生だった。
「武田と藤尾いますか?」
「岩野先生、どうしましたか?」
「いや。野球部でちょっと緊急でミーティングが行われることになりまして…」
「え?おれたちもう引退してるのに?」
武田が声をあげた。
「おれもよくわからないんだ。ただ三年生の野球部員を集めろと教頭に言われて」
「教頭が?」数学教師が訝しげにたずねた。
うちの学校の教頭は、今年の4月に新たに赴任してきた。髭坊主でがっちりとしている50歳くらいの男だ。生徒間では密かに「ホモ」とあだ名されていた。
「とりあえず、二人連れて行ってもいいですかね?」
岩野先生はまだ25歳の新人教師だからか、数学教師におうかがいをたてるみたいな口調だった。普段の練習ではおれたちに兄貴風を吹かせるみたいに結構威張り散らしてたのに、その光景はなんだか面白かった。
進路指導室におれたちは連れて行かれた。
そこには野球部の同級生たちがすでに全員集められていた。
「おまえらもか」
キャプテンだった大澤がいた。色気づいてすこし髪を伸ばしてツーブロックなんかにしている。もっともそれはおれや武田もこれまでの強制坊主狩りの反動みたいに美容室でヘアカットとかするようになっていたし、他の部員たちも似たようなものだった。
「みんななんだな」
「でもなんでうちの部だけ?」
ざわざわと騒いでいるうちに、教頭が入ってきた。
「静かにしなさい」
みんな鎮まりかえった。岩野先生まで静かになった。
教頭の声は威圧的ではないのだが、なんだか聞く者に有無を言わせない感じの迫力がある。
「今日君たち野球部を呼び出したのはほかでもない。君たちの成績があまりにも芳しくないからだ」
「芳しいってなんだ?」
うちの学年で一番馬鹿だった野山が大澤に小声で聞いていた。
「よくないって意味だ」
「そこ、うるさいぞ」
大澤まで注意されてた。気の毒だった。
ゴホンと咳払いをしてから教頭はつづけた。
「そのため、君たちだけ特別メニューの補講を行うことになった。これから夏休み期間は毎日この部屋に集まってほしい。わたしが直接指導させてもらう」
みんなのざわざわがふたたびはじまった。
「しずかに」
教頭の一声でまたぴたりと静かになった。
「ではまず、これを観てほしい」
そう言って教頭が何かをスーツの胸ポケットから取り出した。それがなんなのかわからないうちにおれは記憶があやふやになって……。
気がつくと補講の時間は終わっていた。
「それでは各自寄り道などせずに帰るように」
それだけ言い残し、教頭は進路指導室から出て行った。
「なんだったんだ?」
大澤が首を傾げていた。
そのとき、野山だけが熱っぽい視線で教頭が去った後の扉をずっと見つめているのにおれは気づいたが、その理由も意味もわからないままその日はそれで解散になった。
次の日、おれたちは今度は最初から進路指導室に集まった。
「昨日のテレビ観た?」
「観た観た」
「おまえらすこしは勉強しろよ」
そんな話をしていたら、「ちはーっす」と部活現役時代みたいな威勢のいい声と共にドアが開いた。
野山が入ってきた。みんなその姿を見て目が点になった。だって野山は野球やってたころみたいな丸刈りの坊主頭になっていて、なぜかユニフォームを着ていたから。
「え、どうした?」
「なんだ?どういうノリなんだ?」
みんなが戸惑いでざわざわしてるのを尻目に、野山は進路指導室の後ろに立って休めの姿勢を取った。
「どうしたんだよ、野山」
大澤が恐る恐るといった具合で聞いた。
「まるで部活中みたいじゃないか」
「うっす!自分は野球部員の野山泰介です!教頭先生の特別講習を受けて生まれ変わりました!」
「何言ってんだ?」
「ふざけてるつもりかな」
大澤はどうしたらいいかわからないといった顔でおれたちを見た。でもおれたちもどうしたらいいかまったくわからなかった。
野山だけがキリッとした真剣な目で、真正面の黒板を見すえている。
「はやく座りなさい」
そのとき、教頭の声がした。
「おい、先生来たぞ。ふざけてないではやく座れ」
大澤が野山の肩に手をかけると、「彼はそのままでいい」と教頭が言った。
「もう目覚めたんだな」
教頭は野山にそう言った。
「うっす!自分は目覚めました!」
野山は腹から声を出してそう答えた。
わけもわからないまま、その日も特別講習は始まった。
と言っても、教頭が胸ポケットに手を入れたあたりから、記憶がない。
目覚める部員は日ごとに増えていった。
二日後には部内で一番チャラかった高岡が坊主頭になってきた。
バレないようにすこしだけ茶色っぽく染めてみたりして、名前は忘れたけどなんだかカットにしたんだと自慢していた髪はバッサリと切り落とされて、黒々とした坊主刈りになっていた。
「なんか変じゃないか?」
武田に聞いてみると、武田も同じことをおもってたようで「やっぱり?」と返ってきた。
「おまえらもそう思うか?」
大澤がそこに加わった。
「なあ、講習の中身って、おまえら覚えてる?」
おれがそう言うと二人とも首を左右に振った。
その時、教頭が入ってきた。
あとでな。目配せだけでそう言って、大澤は席に戻っていった。
その日の講習も、内容はまったく覚えていない。
ただ終わった後に大澤が呼び出されるのは覚えている。
「キャプテンの大澤くん、少し来なさい」
そう言って教室を出ていく教頭の後を大澤は追って行った。
その次の日、大澤もツーブロックから坊主頭になって登校してきた。
すでに部員の大半が坊主頭になってユニフォームで、進路指導室の後ろで休めの姿勢で仁王立ちしながら講習を受けているようだった。ようだった、というのは他でもない。おれにもやはり講習の内容は何も思い出せないからだった。
「なにが起きてるんだ?」
おれは武田にたずねたかったが、もうそれはできなかった。武田も坊主刈りになってユニフォーム姿でおれのうしろに立っていたからだ。
大澤が坊主になった日、おれは大澤にたずねた。
「どうしたんだよ?」と。
「目覚めたんだよ」と大澤は目を輝かせながら答えるだけだった。
「残りもあと数日だな」
教頭が入ってきた。ちはーっす!!と背後からユニフォーム坊主集団の快活な雄叫びみたいな挨拶が響いた。
「さて、今日まで目が覚めていないものたちがいるようだ」
気づけば制服を着ているのはおれともう一人、ライトだった柳瀬だけだ。おれたちは目を見合わせた。
「今日は特別に見学を許可しようか」
教頭がそう言うと、複数の部員が歩み出て、おれと柳瀬をはがいじめにして拘束した。
「なにすんだよ」
「おまえら変だぞ」
おれたちは抵抗したが、この前まで運動部だった男たちに数人がかりで押さえ込まれたらなにもすることはできなかった。
「ではまずは単語千本ノックだ。球と棒を使っていつものように英単語千個を暗誦してみろ」
うっす!と叫んで、部員たちはユニフォームのチャックをおろしビンビンに勃起したちんぽを丸出しにした。
「1本目ー!」
大澤が出す声にあわせて、野球の素振りのようにちんぽをバットに見立てて部員たちは腰を勢いよくスイングさせて振り抜いた。
「recommend!」
同時に英単語を復唱する。
おれと柳瀬はあっけにとられてその様子を見ていた。部員たちはそれが日常であるかのように単語ノックとやらをつづけた。
やがて100本目に入る時、「うっ」と武田が呻いた。
「またか!貴様は根性が足りないぞ!」
教頭の叱咤が飛んだ。
「さーせんっ!」
武田は顔を赤らめて叫んだが、次の瞬間に「ダメだっ!イクっ!」と叫び、ちんぽの先端から勢いよくピュッピュと精液を発射させた。
「連帯責任!公式せんずり!最下位はゾーキン!」
大澤が叫ぶと同時に部員たちはチンポを握りしめて、数学の公式を口にしながらせんずりをはじめた。
最初に射精したのは黒川という眼鏡をかけた真面目そうでおとなしい補欠だったやつだった。次に大澤が射精した。大澤のちんぽは主将の名にふさわしい、黒くて太くてずっしりとした度量のあるものだった。
やがて武田以外を残して全員が射精した。進路指導室は精液の匂いで充満していた。
「ゾーキン!武田!」
大澤の声に「さーせんっしたぁっ!!」と武田は威勢よく答えて、四つん這いになって床に飛び散った精液を舌で舐め取りはじめた。
「まだ目覚めないかね?」
耳元で教頭の声がした。
「はやく彼らの仲間になればいい。そうすればきみたちもすぐに成績が上がるぞ」
おれは柳瀬の方を見た。柳瀬の目は充血したようにギラギラしていて、部員たちの揺れるバット、もといちんぽを凝視していた。
そしておれは……。
半年後、野球部員は全員難関大学に合格した。
岩野先生は大喜びしてた。
「あとで知ったんだけど、あの教頭先生は野球部の指導に熱心で、あの先生が赴任した学校の野球部OBは全員が志望校に合格するらしいんだよ」
そうなんっすね! ありがとうございましたっ!
そう言って岩野先生を囲むおれたちの頭はもう坊主頭ではない。夏休みになにか講習をしてもらった覚えはあるが、それ以外で教頭に関して特別覚えていることもない。
「にしても、なんだったんだろうなあ」
卒業式のあと、大澤が言った。
「夏休み明けの模試から急に成績上がってさあ」
「あっ!それおれも!」
「おれもそうだった!」
野球部の仲間たちは口々に叫ぶ。
「でもなにやったかは覚えてねえんだよな」
「うん」
「なんだったんだろうな」
「じつはさ…」
武田が口を開いた。全員が武田を見た。
「おれ、あの夏休み以降成績も上がったんだけど、オナニーの頻度も上がったんだよな」
全員しばらくきょとんとしたあと爆笑の渦が巻き起こった。
なんだよそれ。関係ないだろ。おまえほんとにバカだなあ。でもA大に受かったんだよな。武田でもA大に受かるってマジでなんだったんだろうな。
「でさ」
武田はつづけた。
「じつは…あの夏以降突然おかずが男になったりして……」
全員鎮まりかえった。
「おれもだ」
大澤が口を開いた。
「じつはおれも」
柳瀬が言った。
「おれもなんだよね」
おれも白状した。
え、うそ!?マジで?じつは、おれも。うそ!?おれもなんだよ。
あの夏の講習以来、野球部員は全員男好きになっていたことが判明した。おれたちは肩を叩いて笑いあった。ついでに互いのちんぽや尻を揉みあった。
「で、」
ひとしきり騒いだところで大澤が口を開いた。
「このあとどうする?卒業祝いになんかしようって言ってただろ?」
みんなは互いの目をみあい、何か探るようなまなざしをした。
「乱交パーティー、とか?」
武田が言った。
「いいな、それ」
大澤が武田の肩に肘を乗せた。もう片方の手で、武田の股間を揉んでいるのが見えた。
おれたちはまたゲラゲラと笑いながら、たったいま決まったばかりの卒業記念パーティーを開催できる場所を探して街へとくりだした。