ネコ獣人にはマタタビを ③
🕑 Added 2024-07-13 04:30:00 +0000 UTC
「ほらほら、見てください可憐さん! 立派な猫さんになりましたね」
「え、ええっ⁈ にゃにこれ!」
嫌な予感は現実のものになった。
否、これを現実とは、どうしても思えなかった。
品質の良いマタタビ茶と奥様は言っていたが、品質が良くてもこうはなるまい。マタタビ初体験の可憐だったが、それくらいはわかる。
同時に先ほどまで起こっていた体の違和感も、謎のむずむずも、全ての謎がするりと解けてしまったが、可憐の心には達成感どころか、パニックとざわつきが現在進行形で押し寄せていた。
だが、鏡で姿を確認させられて、他に何を言えるだろうか。
正しくそれは、普通の女子大生の、否、人間のとるべき姿ではなかったのだ。
そう。
「にゃ、何で私、こんな姿に……ふにゃああっ⁈」
最後まで言い終わる間もなく、私の鼻先に、謎の実が付きだされる。
その匂いを嗅いだ瞬間、私の体はふにゃけたように、その場にへたり込んでしまった。
「にゃっ、ふにゃあっ……にゃに、これえっ……」
「お茶の効能ですよ。可憐さん」
奥様が、優しく微笑んで、教えてくれた。
「最高級のマタタビ茶に、私たち魔女の血を引く一族がまじないをかければ、ほらこの通り。猫の獣人さんの完成ですっ」
「……ふぇ?」
意味がまるで分からない可憐だが、奥様はなおも続ける。
「可憐さんはかわいらしいし、絶対に似合うと思ってましたの。尻尾も耳も完全にお似合いですわ! まじないはうちのユウタがかけたんですの」
「ふふん!」
ユウタ君が胸を張って、威張るポーズを見せる。
その子供っぽさそのものの態度を見て、可憐はようやく頭の回転が追い付いたように、
「も、元に戻してください! こ、こんな姿じゃ私……にゃあああっ……」
だが、最後まで言い終わる暇なく、再びマタタビが鼻先に突き出される。
それだけで、どうすることもできぬまま、ただただふにゃりと落ちるだけだ。
そして、身体が動かない可憐が、それでも必死にその顔だけを起き上がらせると、そこには満面の笑みを浮かべたユウタ君の姿があって。
「ねえ、猫のお姉ちゃん」
「ち、違うよユウタ君、わ、わたしは、ネコなんかじゃなくて……ふにゃあああっ⁈」
そう、釈明しようとした可憐の尻尾が不意に捕まれる。
人間では絶対に感じることがないであろう、尻尾をにぎられるという違和感極まりない感触に、たまらず可憐は悲鳴を上げるが、ユウタ君は一切気にした様子を見せずに、
「人間じゃないよ。尻尾も生えてるし、耳だって上についてる、顔だってネコみたいになってるし、どこからどう見てもお姉ちゃんは、猫のお姉ちゃんだよ」
「いにゃああっ、や、にゃあああっ! やめてユウタ君! ふにゃあああ!」
「なにを?」
きょとんとしたユウタ君は、しっぽをにぎにぎと弄びながらそう尋ね返すも、
「しっぽ握らないでっ……! むずむずするからあっ……ニャアあっ……」
「……痛いの?」
「違うけどっ、ああんっ、それ、ダメなのにゃあ、おかしくなるにゃああああっ!」
甘い声を上げながらも、必死に許しを請う可憐。
そんな様子を不思議そうに見ながらも、手を止めるつもりはないらしいユウタ君は、
「でも、イヤイヤっていいながらも、ニャアニャア言ってるおねーちゃん、かわいいよ?」
「~~~~~~っ! ふにゃああああっ⁈ にゃあっ、にゃあああっ!」
そういわれると、矢継ぎ早に体のあちこちをまさぐられて、どうすることもできない。
恥ずかしい。
先ほどから、ためらいの声と同時に、にゃあにゃあと、猫のような鳴き声が、自分の口から勝手に出てくる。
まるで媚薬のように体を火照らせるマタタビ、しかし、それが効いてしまうのは同時に、今の自分が猫獣人であることの証明にほかならず。
「ふにゃああっ、ゆ、ユウタ君、も、もう、むりいっ、にゃああっ、むりにゃっ……おねがいっ、もう、もうして、ほしいにゃああっ、じ、じらさないでっ……」
とうとう音を上げて、快楽に悶えた可憐は、年下相手にとんでもないことを言い出して。しかしすでに、それを撤回するだけの余裕はすでになく。
「……」
「ふふっ、あらあら」
余裕の顔が消え失せ、真顔で生唾を飲み込むユウタ君と、ニコニコと笑う奥さんの姿が、目の前にはあって。
「い、いいの? お姉ちゃん」
「にゃああっ、早くっ、ユウタ君っ、ふにゃああっ……おかしくにゃるううっ……」
尻尾をにぎるたびに身をくねらせる可憐の目は、もはやだれが見てもとろんとしていて。
だが、その熱は確かに、熱くとろけていて。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」
「うんっ、早くっ、にゃあっ……」
「……んっ」
「にゃあっ……ふにゃあああああああっ⁈」
あられもない、猫の鳴き声が響いた。