除夜の鐘(今年もお疲れさまでした)
🕑 Added 2023-12-30 06:00:00 +0000 UTC
「姉さん。除夜の鐘って知ってる?」
大みそかの今日。どこの家でも大掃除やらなにやらで、今年やり残したことを終わらせようと、あわただしくもみんな、頑張っている。
だが、そんな中でも、怠け者というのは、どこにでも存在するものだ。
当たり前の質問をした果歩に、姉の千鳥は首をかしげながら、
「え? 知ってるも何も、大みそかに聞こえるあれでしょう? 近頃はうるさいとか何とかで騒ぎになったりならなかったりするやつ。いろいろ言われたりはするけど、私は好きだなあ」
「そう。ゴンゴンなるのを聞くと、今年も終わりだなーって思うやつ……あれって、煩悩を落とすのに、すごく使えるらしいのよ」
「……」
「それから、騒音問題といっても、個人的には使い道があるように思えるの」
たとえば、と。
「例えば、物好きな人には、女の子の喘ぎ声にも聞こえそうな、そんな除夜の鐘があれば……人気は出ると思うのよね」
逃げ出そうとする千鳥の手を、果歩はがっしりと捕まえて。
『ば、罰当たりよ!』
「大丈夫、仏様は寛容よ。心を込めれば許してくれるわ……というか、ゴロゴロしてるくらいなら、少し暗い人の役に立ちなさいよバカ姉」
『⁈』
そして、千鳥の手をつかんだまま、果歩は呪文のようなものを唱えだす。
抵抗しようにもできることが何もないまま、むくむくと千鳥の体は肥大化して行き……
「というわけで。やってきましたお寺!」
年の瀬だからか、元気よくリポートして見せる果歩は、お寺の住職さんに簡単な挨拶を済ませた後。
「ええ、分かっておりますとも! 除夜の鐘問題は由々しき事態……そんな折に、その身を張って百年後の除夜の鐘を守らんとする少女が一人……私の姉、千鳥お姉ちゃんです!」
(バカなことやってないでとっとと元に戻しなさいっ、あ、こらっ、触るなっ……!)
微妙にプルプルと震えているようにも見えたが、流石に大きい金属製の鐘。
少々の違和感に気づくことはなく、それ以上にずっしりとした存在感に圧倒される。
ただ、姉が怒っていることだけは理解しているらしい果歩は、怒らないで―、と笑いながら。
「しょうがないじゃない。ほら、姉さんは日ごろから怒りっぽいしうるさいし、大学もさぼりがちだし……お父さんとお母さんにに何とかしてって頼まれたんだもん」
(だからってどうして除夜の鐘にするのよ! ……ひゃっ!)
文句を言おうにも、自分では身動き一つとれないのが、除夜の鐘の宿命だ。
そんな黒光りした除夜の鐘に、果歩はまるで仏のようにやさしい笑みを浮かべると、
「煩悩を落とすためだよ。お姉ちゃん」
……優しい声色にもかかわらず、その目は一切笑っていなかった。
そして、数時間後。この一年が終わるころ。
「そういうわけで、皆さん今年もお疲れさまでした! 姉さんには一年でたまりにたまった煩悩を、しっかりそぎおとしていただきまーすっ!」
(やめっ! んああああっ、だめっ、つかないでっ、あああ、変になるっ!)
ゴンゴンと鐘が鳴るたびに、その甘い声が、分かる人にはわかるように、周囲の人々の脳裏に切なく響く。
勘のいいひとは立ち止まって首をかしげるが、甘い声とて所詮は除夜の鐘。
とどろく声の主は、ただどうするでもなく、木槌のようなものでゴンゴンとたたかれるのみ。
「さて……あと百回……」
(ひっ……こ、こないでっ、やだっ、乱暴されるのやだようっ……!)
「大丈夫だよお姉ちゃん。今のお姉ちゃんは除夜の鐘なんだもん、ならされるのが普通だし、痛くはないよ。というか、気持ちよさそうだけど?」
(そ、そんなことないっ……! んあっ、は、早くもとに……やああああんっ!)
御恩っ、と、音が鳴る。が、千鳥の快楽はそこでは終わらない。
(ああああああっ……ダメええっ、体中、びくびくしてるううっ……)
「大きい鐘だもんねえ。ならした後はびくびくするよねえ……ちょっと面白そうかも」
そして、鐘の姿になりながら、強制的に煩悩を落とされている姉を見ながら、果歩は笑って。
「一年の最後に、お姉ちゃんのちょっといいところ、見れてよかったと思うよー? 年が明ける前に、何かい絶頂しちゃうんだろうねー」
(っ、このっ、早くもとに戻しなさいっ……ひゃああああんっ、や、やだっ、ほんとに、もとにっ、ああんっ、だめっ、そんなにゴンゴンされたら、おかしくなっちゃうっ、イッちゃうっ、んっ、ああああああっ!)
「……ある意味、これも色欲っぽいけどねえ」
煩悩を落とすために姉を除夜の鐘にしたが、やはり甘い声はとどまることを知らず、徐々に熱っぽいものになってきていて。
(ああああんっ、も、もっとっ、そこ、そこ、ゴンゴンついたらダメえっ……年の終わりに、こんな恥ずかしいの、嫌ああああっ! ああんっ!)
「……我が姉ながらかわいいな。少しだけムラっときたかも……」
少なくとも、煩悩を落とすという役割は、まるで果たせる様子がなかった。