裏番組のアナウンサー 前編
🕑 Added 2022-09-10 03:00:00 +0000 UTC
裏番組という言葉がある。
一般的な意味合いとしては、同じ時間帯に違うチャンネルでやっている番組のことをさすわけだが……
「なるほどなあ。裏社会限定の配信番組か……テレビ会社もいろいろやるなあ」
それで裏番組と呼ぶ当たり、なかなかのネーミングセンスだなあ、と、俺が感心していると、そばに控えていた秘書が、うんうんと小さくうなづいて。
「まあ、そういうことです。最近はテレビに興味がない層が増えていますから、業界としても稼ぎどころを作りたいみたいですね」
裏社会、マフィアなんてものがどれくらい生き残っているのかは知らないが、一部の富裕層とか、権力者なんかも含めていいなら、それなりのお金が動くのだろう。
「それで? 一応裏ともかかわりのある俺も、この番組を見る権利があると」
「おっしゃる通りでございます。スパイ派遣会社の社長ですので、映像を見て感想をいただけたら、と」
「ふーん」
まあ、見るだけなら、ということで。テレビの電源をつけてみた。
さてさて、裏社会のテレビ番組とか、興味ないといえばうそになる。
「でも、俺も仕事あるし……」
「まあまあ、そういわずに……」
秘書がテレビの画面を付けたので、これは何かあるなとは思った。
『さあ、本日は私、三代動物園に来ております!』
電源を入れると、映っていたのは近くの動物園。若者に人気なデートスポットだ。
『この三代動物園は、開園から半年で、今年の動物園人気投票で第一位を記録しており、名だたる著名人からも絶大な支持を受けております! いやー、私もプライベートで音連れてみたんですが、本当に動物の数が多くて、一日中楽しめちゃいました!』
若干アナウンサーの顔が引きつっているようにも見えるが、うん、悪くない。普通の良いニュース番組だ。
だから、その辺にあったせんべいをつまみながら、
「何だ、普通のニュースじゃないか」
「ええ、ここまではそうです。ですが社長、何かしらの違和感に気づきませんか?」
「ん? しいて言えばアナウンサーの女の子が何かにビビッてそうなくらいだが……まあ、裏社会だからな。しくじったら殺されるとか、そういうことか?」
「……違いますが。まあ、見ていてください」
そういって二人してしばらくテレビを見ていると、動物紹介の場面に。
『見てください、大きなゴリラですね。手を振ってみましょうか!』
アナウンサーの女性が手を振ると、檻の向こうのゴリラも手を振る。
『わー、賢いゴリラですね、さて、次へ行きましょうか』
どこか気まずそうに、そそくさと次の動物へ向かおうとするアナウンサー。
「……おかしいな。これ」
「でしょう?」
どうしてこいつが得意げなのかはわからないが、確かに違和感には気が付いた。
「動物の番組なのに、肝心の動物をぞんざいに扱って次へ行くとか、これはおかしい」
「お見事です社長。ではもう一つ。檻のほうを見てください」
「ん?」
確かに、カメラが映しているのはアナウンサーだけではない。檻の中にいるゴリラもしっかり映像に収まっている。
だが、
「何か……あれだな。メスのゴリラとはいえ、何か恥ずかしがっているように見えるな」
「ええ、そうですね」
まるで、カメラがこちらに向け荒れた瞬間に、恥部を抑えて隅へ逃げようとしたり。
強引にカメラが追い付くと、どうにかして体を隠そうとしたり。
そして、極めつけは。
「では、ゴリラはこれくらいにして、次は虎のコーナーへ……わわっ!」
アナウンサーのお姉さんが檻を後にしようとすると、ゴリラが打って変わったように檻をたたいて、アナウンサーを威嚇するのだ。
そして、アナウンサーのほうも、一瞬だけ驚くと、何やら申し訳なさそうな顔をして、小さい声で、ごにょごにょとゴリラに何か話しかけている。
まったく。ゴリラに日本語が通じると思っているのだろうか。それに、話しかけている内容もなんだかおかしい。
『ごめんなさい里美さん、私にはどうにもできませんし、まあ、一週間で元に戻れるって話じゃないですか、頑張ってください』
『ウホッ、ウホオオオオッ!』
ゴリラが檻をたたく。何やら癪に障ったらしい。
『里見さん、落ち着いてください、気持ちはわかります、分かりますけど落ち着いて。ああ、だから暴れると戻れなくなりますって! それに、もしも態度が悪いと、今度はゴリラどころじゃすまないかも……もっと変な動物にされちゃうかも』
『……』
『それに、いいじゃないですか。発情期なんですから、ゴリラの相手いっぱいできて、案外お得かもしれないし……』
『ウホオッ⁈ ウホオオッ、ウホオオオオオオっ!』
怒れるゴリラ。そのままアナウンサーにつかみかかろうとするも、残念ながら檻が二人を隔てる。
そして、アナウンサーは完ぺきなカメラ目線で。
「さて、次の動物コーナーへ行ってみましょう。次はゾウさんのコーナーです!」
その笑みは、やっぱり引きつっていた。
さて。
「社長、これを見ての感想を」
「うん。ずいぶんとえぐいことやってるね。アナウンサーの子はともかく。檻の中のゴリラのほうは特に」
……うん。これ。人間がゴリラに変身してるな?