妹が炊飯器になれば、おいしいご飯が炊けるかもしれない 前編
🕑 Added 2022-05-21 04:00:00 +0000 UTC
親の庇護下を離れて一人暮らしを始めると、経済力のない学生は、たいてい、金欠に陥るものである。まあ、これも社会勉強の一つ。こういう経験を通して、人は大人になっていくのかもしれない。
そして、一番影響を受けるのは、今まで甘やかされて育った、家事の一つもできない人種だったりする。
「……あれ? 俺の貯金がない。盗まれたか? 通帳名簿は……ふむふむ。確かに旅行いったし、カニの食べ放題も……あ、ギターも買ったな……あーなるほど、使い切っただけか」
新生活が始まって早数か月。
余裕だと思った貯蓄が尽きた。理由は簡単。外食ばかりで食費がかさみまくったからだ。
「……しゃーない。残った金でコメを買いに行くか」
大学生の英輔は、食費を浮かせるために、いまさら自炊をすることにした。甘やかされた坊ちゃんの、人生初めての米炊きである。
とりあえず最寄りのスーパーで、おいしそうな総菜と、国産のお米を一キロ。
家についたとたんベッドに倒れこみながらも、その顔は笑っていた。
「ふふっ、これで一安心。飢え死にすることはないな。あとは……あれ?」
しかし、悲しいかな。英輔はどこまで言っても、お坊ちゃんあがり。
「あ、やべ。炊飯器買ってなかったわ」
ご飯を炊くには炊飯器。その当たり前すぎる事実にすら、今の今まで気づかなかった。
「あー。これは、ちょっとピンチだな。そうか、炊飯器持ってなかったかー」
うーん、と、腕組をして考える。
このままではご飯が食べられない。英輔は一人暮らし始まってそうそう現れた、最初の難関。
「今から電気屋さんに向かって……いや、このあたりにはないんだよな……となると……」
出来ることはもはや一つだけ。ほかに手段もない英輔は、あきらめたようにメッセージアプリを起動し……
「……とまあ、そういうわけでお前を呼んだわけだ。お前なら炊飯器に変身できるだろうし、美味しいご飯を炊いてくれ」
(どういうことですか! あ、ああっ、ま、まって、お米を中でかき混ぜるなら、もっと優しく、あっ、それ、だめ、兄さん、だめ、ですっ……)
「ふーん、内釜にも感覚があるのか。にしてもどうして喘ぎ声?」
(に、兄さんがいきなり変身させるからでしょうが、へ、変身したては敏感なんですよ……っ、あっ、だめっ、だから、もっと優しく……あっ、どこ触ってるんですかっ、兄さんのエッチ!)
「どこ触ってるんだ俺は……」
義理の妹、良子は、最近魔法使いにスカウトされた逸材である。話を聞いた当初は、頭がおかしくなったのだと家族全員が思った。それでも目の前でこうもあっさり変身を見せてくれれば、いい加減信じなければなるまい。
「やー。よかったよかった。お前をスカウトしてくれた魔法使いに感謝だな。これは助かる。使い勝手が非常にいい」
(こ、こんなことのために魔法を覚えたんじゃないですっ、んあああっ!)
「ほら、優しく丁重にコメをかき混ぜて、流して、また水を入れて……」
(あああんっ、はげしいっ、そんなっ、もっと、もっとやさしくっ、ひゃあっ、そこかき回さないでっ……切ないっ、ああっ……)
しかし、甘い声で喘ぐ妹を見ていると、少し楽しくなってきたのか。
「……それっ」
(んあああっ、に、にいさんっ、だめっ、そこ、お米がこすれて、敏感になってて、あっ、あひゃあっ……)
「ん、そうか」
(はああんっ、い、いじわるしないでっ……ああん……)
甘い声で懇願する良子だが、そもそも英輔は米を研ぐのも初めてなのだ。
「お前の声聞くのも楽しいし、それに、何度かき回しても水が白く濁ってな。いつまでかき混ぜればいいのかわかんないんだよ」
(も、もう十分ですからっ! 何度やっても水は濁るんですっ! だからっ、もうやめてっ、あっ、ふぁああっ⁈)
「ふむ、そうか」
ならば、次のステップへ進もう、と、英輔はといでいた手を止める。
(はあっ、はあ、はあっ……な、何で、お米を研ぐだけで、こんなことに……ああんっ……)
余韻が残っているのか、身体をビクビクさせる良子。
その様子を見ていると、英輔はふと思う。
「お前の本体って、炊飯器だろ?うち窯かき回すだけで、そんなに気持ちいいの?」
いじわる気に、再び外側を爪でコンコンつつくと、
(ああっ、や、やめてえっ……ち、ちがうんですっ、で、でもっ、体の内側、いじらないでくださいようっ、兄さん、私たち兄妹なのにぃっ……んあっ……)
息も絶え絶えに訴える良子。確かに体の内側をいじくりまわせば、快感が生じても仕方がない。
そんな様子にうんうんと納得した英輔は、
「よしよし、じゃあ本体の方も撫でてやろう」
(あうっ、そ、そういうことじゃないです! ああっ……も、もう……)
「ん、コンセント差してないのに赤くなってるぞ、よしよし、かわいい奴め」
(っ!)
動揺したように震えだす炊飯器にうち窯をセット。(アアンッ!)という声が脳内に響くも、それを温かい目で見送って、
「兄妹協力して、美味しいご飯を作ろうな」
(ふぁあああっ、ば、ばかなこといわないでっ)
こんな風に流されてしまったのだから、もうどうしようもなかった。