新築祝い ③
🕑 Added 2022-01-22 04:00:00 +0000 UTC
詩音が元に戻ったところで、赤い顔をごまかすように、
「……で? 何か欲しいものはあるの?」
「え?」
きょとんとする詩音に、ため息をつく美織。衣服を整え、二人とも顔は真っ赤に染まっているが、このままでは当初の目的が達成できない。
荒い息を整えて、美織は声を荒げた。
「……あんたねえ……家具一式そろえるって話でしょうが! 何も決めずに行き当たりばったりで決まるわけないでしょ」
「い、いや、私もなんとなくわかったから、あとは自分で……」
「無理ね。あなたの性格上、次に来た時もこの殺風景な部屋だと思うわ……」
そして、仕方ないとばかりに詩音のパソコンを開くと、通販で適当な物を注文し始める美織。
「買いに行くのはやめましょう。寒いし。今日中に部屋のレイアウト、終わらせるわよ」
「う、うんっ」
そして、通販というのは早い。たった数時間後。午後。
「よしっ、これで大半のものはそろったけど……いや、いままでテレビも洗濯機もなかったのがおかしいんだけど……まあ、生活できる水準にはなったかな……ねえ詩音、あんた、ほかに欲しいものある?」
あるならあるで、買い足すけど、と。美織。
しかし、美織が振り向いた先で、なぜか詩音は顔を赤く染め、もじもじとしていて。
……嫌な予感がするなあと、幼なじみの付き合いの長さゆえに、美織はおぞましさを感じ取った。
「……あ、あのね美織ちゃん。ほ、ほら、最近結構寒いし、こ、こたつなんて、どうかなって……」
「いいじゃない。あんたにしてはまともな案が出て安心したわ。よし、それじゃあ、通販で手ごろな物を……」
「い、いや、それなんだけど……せっかくだし、美織ちゃんと一緒にあったかくなりたいなあって……」
「……はあ?」
なにを言っているのだこの幼なじみは、と。いままで何度思ったか分からない疑問符を頭に浮かべるも。
「安心しなさい。こたつは基本的に集団用のものが多いから、私も一緒に入れるものを……」
と、正論だけをしきつめ、注文を決めてしまおうとしていた矢先だった。
「み、美織ちゃん……お願いがあるんだけど」
「……」
嫌な予感は先ほどからある。
いつもこうだ。美織といると、数時間に一度のペースで嫌な予感というものが頭をよぎる。そういう風にできている。
そして、こんかいも。
「美織ちゃん、お願い! 私の、私専用のこたつになって……!」
「……は?」
美織の危機管理能力は高い。しかし、それでもどうしようもない可能性はもっと高い。
「まって、なに言ってるの……があっ、や、なにこれ、か、身体が、変わって……ま、まちなさい、美織、う、がっ、ギャッ……やめ、があっ……」
痛みはない。痛みはないが、身体が別のものに変わっていく奇妙な感覚が鮮明だ。
「人間の体を別のものに置き換える研究があって、それで、前々から美織ちゃんをこたつにできたら、一緒にあったまるなあと思って……大丈夫! 一日で元に戻るから!」
はあっ⁉ と、声にならない声をあげる美織。
一日もこたつの姿で、モノの姿でいなければならないなど、たまったものではない。
しかし、文句を言うことは、もはやかなわなかった。
「や、やめなさがあっ、っ、ああっがっ……~~~~~っ!」
なにせ、文句を言うための口すらなく。一般的なお店で売られるような、立派なこたつが、そこに出来上がっていたのだから。
「……」
声をあげることすらできない美織に、詩音は近づく。
「うん、無事に変身できた。私以外の人間で試したことなかったけど、無事でよかった。ありがとう。可愛いこたつだよ、美織ちゃん」
「~~~~~!」
テーブル部分を優しくこすると、ビクンビクンとこたつのきしむ音がする。
文句を言っているのか、変身の余韻にあえいでいるのか、しかしそれを知るすべはない。
しかし、詩音にとっては付き合いの長い友達、考えも手に取るようにわかるようで。
「そ、そんなに怒らないでよう……は、早く元に戻せって言われても、無理だもん……一日すれば戻るけど、急いでも半日はかかるだろうし……あ、こたつにコンセントいれなきゃ・……」
「~~~~⁉」
炬燵が二度、ビクンと震えた。何かを伝えようとしているらしい。
「え? やめろって言われても、そうしないとこたつの意味ないし……大丈夫、痛くないし、怖くないから、わたし、電気工学も強いから……」
ビクンビクンと、さらに炬燵が震える。
「そういうことを言ってるんじゃない……? そういわれても、ああ、寒い。電気ついてなかったね。じゃあ、あったかくなろう。コンセント差しちゃうね……大丈夫、怖くないし、痛くないよ」
反論を振り切って、プラグを差し込むと、こたつがぎしぎしと音を立てて揺れ、
「~~~~~~~⁉」
声にもならない声を、あげることすらかなわずに、美織はその意思に反しこたつとして、その内部を温め始めた。