アイドル業界の新戦略 その一
🕑 Added 2021-07-31 05:00:00 +0000 UTC
芸能界。それは光り輝くステージで、観客を魅了する奇跡の存在。
そして、人の見えないところで、人一倍熾烈な競争を勝ち抜かんと、日々自分を磨き、他者を蹴落とす、そんな弱肉強食が当然のようにまかり通る世界。
その中でも、ひときわ輝く一番星であるべき存在。それが、アイドルだ。
そして。
「うーん。やっぱだめだな。いろいろ打ち出しては見たが、思ってたほど売れてない。いやー失敗した。男性アイドルグループにしても、30人は多すぎた。無理、やっぱやーめた。……あ!男女混合グループなんてどうだ⁉ そうだ!男女半々のグループにしよう!」
『⁉』
「でもなあ、新しく女子アイドル捕まえるか? スカウトは手間も時間もかかるし、なるべく即戦力がいいなあ……あ!そうだっ! 最近製薬会社の人からあれ貰ってたんだ! 女体化薬!半分女の子にしよう! ヘイ君たちっ! こっちから右の半分の君たちね。君たち15人、明日から女子アイドルやっちゃいなYOっ!」
『⁉』
……そして、ひときわ輝くがゆえに、色濃く残る影がある。
事務所同士の対立が、また、その解決策が、ひときわ常軌を逸しているのもまた、アイドルなのであった。
翌日。
社長から見て左側にいたアイドルたち。要するに、被害にあわなかった男性アイドルの面々は、その日、誰が言い出すわけでもなく、全員が早めに出社した。
アイドルにとって、チームメイトはライバルでもある。時として、蹴り落としてでも上に行く心は大事だ。
しかし、それはそれとして、それ以前に仲間でもある。
いきなり女体化してくれと言われて、その日帰ってこなかったとなると、心配するのが人のさが。グループリーダーのレイから何の音沙汰もないが、かえって不安は募るばかり。
社長の気まぐれは今更だが、それでも、二分の一を免れた者たちは、残りの二分の一。選ばれてしまった方の末路を、見届けずにはいられなかった。
「……ここか。あいつらが連れ去られたっていう部屋は」
「ああ、間違いない。マネージャーから聞いた。女体化薬を飲んで、副作用で眠りについたらしい。とりあえず、ひどい目には合ってないらしいが……」
そもそも、勝手に性別を変えられるのだ。十分ひどい目ではある。
「じゃ、じゃあ。みんな。覚悟はいいか、開けるぞ……!」
男子15人、覚悟をもって、ドアを開く。
そこには。
「……うわっ! お、おまえらっ、見んなっ、こ、こっち見んなっ!」
「畜生っ、お前らは男のままかよ……っ、くそ、くそおおっ……」
「ああ、胸が邪魔で動きにくい……なんで俺がこんな姿に……」
『おお……』
さすがはアイドル。もとがいいというべきか。社長の見立て自体は、間違ってはいなかった。
あちらこちらに座り込んで、はたまたこちらに背を向けて、絶世の美女たちが、恨めし気にこちらを見つめていた。
「ううっ……なんで私がこんな目に……タカヒロくん、何とか元に戻せるよう、社長に働きかけてくれませんか?」
礼儀正しいグループのリーダー。レイが涙目でうつむく。普段口うるさいリーダーも、今回ばかりは冷静でいられないらしい。一人称もわたしなので、こうしてみると女性としか思えない。
「そ、そんなこと言われても……俺たちで何とかできるかどうか……」
「お、お願いですっ! このままじゃ、私、私っ……」
「お、おおう……」
そして、涙目で胸を押し付けられて懇願されては、タカヒロも正常じゃいられない。
そもそも、今までは眼鏡をかけてきちっとした、インテリクール系のアイドルだったのだ。
それが、ドジっ子メイドのようなゆるふわ巨乳になられては、どうしたらいいのか分からない。
「分かったから、わかったからいったん落ち着こう、な? 俺が何とかして、元に戻してやるから」
「ううっ……は、はい……」
「俺がついてる、大丈夫、大丈夫だから」
「う、うん……」
二人の間に変な空気が漂う。男同士から男女になったからだろうか。
「くそっ、なんで俺が、こんな姿に……」
「えー、でも、リョウ君、可愛いよ。こんなにちっちゃくなっちゃって。前までは一番背も高かったのにね。ロリ枠にジョブチェンジなんて、大胆っ」
「文句なら社長に言えよ! うひゃああっ、や、やめっ、抱きしめるなっ!」
俺様系ナンバーワン。このユニットの切り込み隊長こと、リョウ。
スポーツ万能な高身長男子は、どこからどう見ても小学生ほどの、小さな姿へと変貌した。
「よしよし、可愛いね、こんなかわいい女の子なら、人気出ると思うよ?」
「や、あっ、ふああっ……い、やだっ……おれは、男として、周りをキャーキャー言わせて……っ、ああっ、や、やめろぉっ……」
そして、美人とは、必ずしも幼いことではない。
「ううっ……せっかくいままで頑張って硬派でやってきてたのに……鍛えた体が全部無駄になった気分だ」
「す、すごいですケインさんっ、大人の女って、こんな感じなんすね。やばい、これがアイドルとか、マジでエロい。女の色気ってのがむんむんして、ほんと、くらくらしますっ、胸の大きさだけなら、トップなんじゃないですか?」
「やっ、やあっ……さ、触るなぁッ……」
後輩のジュンにあちこちをまさぐられ、不本意ながらも声をあげてしまうケイン。
その声がだんだん甘いものに変わっていることに、気づくものはいない。
「ルイは普通だな」
「……普通って何さ」
「いや、もともと女顔だからかなあ。他のやつらみたく、誰だこいつって感じがない。一目でルイだってわかる」
「それ、褒めてるの?」
「褒めてるほめてる。ルイはいつでもかわいいからな。社長の見る目も悪くないってことだ」
「もう……」
ぶっきらぼうにそっぽを向くも、まんざらではないご様子。
とまあこのように、勝手知ったるチームメイトの雰囲気は、なんだかいかがわしいような、甘酸っぱいような、そんな雰囲気に変わっていった。