男子トイレの憂鬱 後編
🕑 Added 2021-06-19 07:30:00 +0000 UTC
(っ、身体が動かない…・・・っ)
最初に感じたのは、無機質な体、動くことを想定していない体。次に感じたのは、嫌なにおい。そんな様子を見ながら、男が悪い顔をしてこちらを見下している。
不便に決まっている。不快に決まっている。
何より、ずっと強制的に口をあけっぱなしにされているようで、虫唾が走る。
内心浮かび上がる恐怖を何とか嫌悪で塗りつぶし、目の前の男どもをにらみつける。
勿論、ただの男性用トイレなので、何の威厳もありはしない。
「さてと。君たちはもう席を外していいよ。なあに、イライラする気持ちもわかるけど、この子もこの姿で内心びくびくしてるはずさ。明日あたりから解放する。思うところがある子は、積極的に使ってやるといいさ」
それは、すべてを見透かしていたような言葉であり、誰もその言葉に返すことはなかった。
数日後。
(お願い…もうあたし、おしっこなんて飲みたくないっ…・・・)
肉棒が口の前に強引に見える。逃げようにも目をつむろうにも、男子トイレの性質上、そんなことは無理な願いだ。
「ふふ、今どんな気持ちなのかなあ。案外中身はもろそうな女の子だったから、そろそろ心が折れて助けを求めてるんじゃないのかなあ」
動かないとはいえ、ビクンビクンと震えているトイレ。言葉が伝わらずとも、どういう信条であるかくらいは分かる。
「まあ、さすがにトイレになるってのは想定外だよね。僕もうまく行くとは思わなかったし」
(そ、そうよ…・・・分かってるんなら、はやく元に戻して…・・・)
「まあ、そろそろ限界だし、今日も仕事頑張ってね」
(ま、待って!もっ、むごおおおっ!)
そうして男はためらいなく、派手に放尿を始めた。
吐き出す機能がない以上、尿はすべて飲み込まなければならない。というか、どれだけ抵抗しようとも、いくらでも体が受け入れてしまうのだ。
(や、やだぁ…・・・こんなの、こんなの…・・・おねがいぃっ、もう悪いことしないからぁ…・・・)
涙ながらの懇願も、そもそも涙を流す機能がない。
もっと言えば、放尿を洗い流すボタンすら、自分では押せないのだ。
「ふー、すっきりした。ねえねえ、今どんな気分?」
男は、あえて用を足したまま、トイレを見つめ続ける。顔を真っ赤にしているであろう内部の魂に思いをはせる。
洗い流すボタンを、おすかおさないかのところで、にやにやと事の成り行きを見つめる。
実際その予想は当たっていた。
(は、早く押しなさいよ・・・・・・! こんな、体中におしっこかけられたままなんていやよ!)
にやにやとトイレを見つめる男。間違いない。確信犯だ。
「ふふっ、どうしよっかな。ここ、敏感なんでしょ?触ってほしい? 洗い流してほしい?」
(~~~っ!!)
恥ずかしい、臭い、助けて。
もはや、言葉にならないその内心は、確かに折れていたのだろう。
放尿を終え、踵を返そうとする男。
「…まあ、いいけど。マナーだし」
(お願い…洗い流して…・・・んひゃああああっ⁉)
女性器の敏感なところ。なぜかその感覚がボタンにあるようで、押した瞬間、絶頂とともに大量の水があふれ出る。
ミカエラ個人としては、涙やら愛液やらが全部まとめて出ているような、そんな感じであった。
(み、みないでぇっ、はアアアンッ…・・・)
「うわあ、人間モードで見てみたいなあ」
表情の一つとして変わらないトイレは、しかし男にのみ分かる、そんなエロさがあった。
「さて。僕はもういくけど」
一通りすっきりしたところで、男としてはここに居合わせる義務もない。なすべきこともしたし、本当に帰るしかやることがない。
(ま、待って・・・! 行かないで・・・・・・!)
元に戻せる唯一の人間。いなくなってもらっては、この生き地獄が延々に続く。
わずか数日で、死刑よりも重い刑だと察している。
自分もいろいろ悪事をしてきたつもりはあるが、ここまでの仕打ちを受けるほどか。
魔術を完成させた男でさえ、自分の才能に戦慄したこの魔術。
助けを求める声も通じず、誰にも気づかれずこれから先も辱められ続ける。
(な、なんとなく、私の心、伝わってるんでしょ・・・? お、お願い、一人にしないでぇ……)
人生で初めての猫なで声をして、人生で初めて女の武器を使ったのが、この時だったという。
一年後。
「やれやれ。多分君の心が完全に折れて、憑依刑が残酷すぎるって風潮が強まったこともあるし、特例として戻してあげる。いや、君のことだから報復とか考えてるかもしれないけど、今度何かしたら小便だけじゃすまないかもね」
びくんびくんとトイレが震える。
そんなことしないから、とっとと戻してくれと言わんばかりだ。
この一年、ミカエラは徹底して男たちのおしっこをかけられまくった。時にはかけるだけかけられて、流されないまま、訳の分からない味と匂いを延々とまとわりつけさせられた。
男が数日に一回、掃除にやってくると、小刻みにトイレが揺れていて、泣いていると分かって、報告した結果だ。
死刑以上に非人道的であると報告したのも男である。結局こいつにも、人の心があったのだ。トイレにだってあるのだから、まあ、しょうがない。
解呪の呪文、男は自分の肉棒を取り出すと、最後の放尿を開始した。トイレはこれが最後とばかりに、ビクンビクンと揺れながらも、その辺の知らない男よりはましと、一年で見についた受容性を見せた。
トイレの中からぶわっと何かが抜けるように見えて、その後、一年間眠りについていた体が起き上がる。
「やあおはよう。気分はどうだい?」
ミカエラは、久しぶりに思い通りに動く身体を、涙を流しながら抱きしめ、そして、我慢できないとばかりに一言。
「と、とりあえず、シャワーを浴びさせてください」
一年間おしっこをかけ続けられた女性として、ささやかな願いだった。
その後、トイレとして生きた経験から、男のおしっこを求める体になってしまったことは、また別のお話。