男子トイレの憂鬱 前編
🕑 Added 2021-06-12 08:30:00 +0000 UTC
※女の子が男子用トイレになって、おしっこを飲む場面があります。苦手な方はご注意ください。ジャンルがジャンルなので、とりあえず前後編にしてあります。要望があればもう少し書くかも。
あまたの悪事を働いたとして、その悪名は点まで届くといわしめた魔女、ミカエラ。
そんな彼女にも、いよいよ年貢の納め時がやってきた。
「ふんっ!あたしだって魔女の端くれ、今さら命乞いなんてしないわ! 斬首刑でも火あぶりでも好きにしなさい、でもいいこと? アタシは魔女。魔法も呪いもエキスパート。あたしが死んだ暁には、この国の全国民が死に至ることでしょう」
たじろく国王、兵士たち。その様子を見てうれしそうにふふんとふんぞり返るミカエラ。
このままうまく裁判を長引かせて、隙を見計らって逃げてしまおう、その様にほくそ笑んでいた。
「お待ちください。王様。なにも殺す必要はありません、私に考えがございます」
・・・・・・この男が現れなければ、確かに彼女の目論見通りに事が進んだのかもしれない。
それは、若い男だった。聞くところによると、ミカエラより二つ年下。
そんな男に何ができると、ミカエラはバカにしたような目を向ける。彼にそこまでの影響力があるものか。と。
これが失策だった。そもそも殺すという選択肢を奪ったのもミカエラ。誘導にせよなんにせよ、これでむこうとしては刑の執行ができない状況となっている。
退路を断たれたのだ。どちらかと言えば、進む方向を絶たれたわけだが。
その結果。何が起こったか。
頭の柔らかい若者の発言。普段なら切って捨てるところであっても、王の耳に入った以上、そして王がそれを認めた以上、無視することができなくなった。
そして、ミカエラは、憑依刑という、前代未聞の刑罰、のちの世では封印刑と呼ばれる刑罰の、その第一人者となったのである。
判決が下った後も、執行までは一晩ある。
「ふん、どうせ大したことはないでしょう。一通り封印されたふりしてあげて、しばらくしたら抜け出して、関わった馬鹿どもに報復してやればいいわ」
魔女の本能が危険信号を鳴らしていても、ミカエラの辞書に命乞いや懺悔などありはしない。
だから、忍び寄る恐怖に背を向けるようにして、無理やりにでも眠りについた。
「で? こんなところまであたしを連れてきて、いったいどうするわけ? この国であたし以上の魔術師なんて聞いたこともないし、そもそも封印なんて無理なんじゃないのー?」
そのふてぶてしい態度に、周囲の兵士たちもいら立ちを隠せない。
しかし、事実、ミカエラに勝る魔術師など、そうお目にかかれるものじゃない。それ故に、こいつをとらえるまでには長い時間が必要だったのだ。
緊迫した雰囲気が限界を迎えるかと思ったその時、ようやく責任者の姿が見えた。
「やあ、ご機嫌いかがかな?」
「…・・・あら、昨日はどうも。おかげさまで死刑にならなくてすんだわ。ありがと」
憑依刑の言い出しっぺ、若い男だった。
「あなた、多少の魔力はあるみたいだけど、そんなことであたしを封印なんて、できると思ってるの?」
嫌みったらしい言い方に、しかし男は笑って答える。
「はは、確かに僕の力はあなたにまるで届かないでしょうね。ですが、魔法に必要な物は魔力じゃない。創意工夫でしょう?」
その明るい声は、これから刑を執行する者とは思えないほど明るい。
気に入らないなと、ミカエラは思った。日陰者とは明らかにかみ合わない。いっそのこと、この場で強引にでもつぶして、脱走を図った方がいいかとも考える。
「おっと、させませんよ。大人しくしておいてくださいね」
「…・・・ちっ」
縛られた状態では、さすがに分が悪い。隙を見せてくれる様子もなく、強引な手段に出れば、最悪死んでしまう。
大人しくしておくほかはないと、魔術の発動をぼんやりと眺めながら、
(ま、覚悟しておきなさい。とっとと封印から抜け出して、あんたら皆殺しにしてやる)
男のうすら笑う顔など目にも止まらず、ただただ意識が遠くなる感覚を、彼女は味わい続けていた。
「…・・・ん?」
が、なんだかんだで優秀なのが、ミカエラの不幸なところ。
すんでのところで気づいてしまった。
「憑依、憑依って…・・・あたしを憑依させるってことよね…・・・いったい何に憑依させるの? 依り代は?」
ミカエラとて、封印とまではいかないが、似たような実験を行ったことはある。その時は札であったり、宝石であったり、その様なものが一番うまく行きそうということが分かっていた。
が、当然ながらこのあたりにそのようなものはない。
何の変哲もない、ただの男子便所の近くだ。
「…・・・ん? 男子便所・・・・・・っ! ちょっと待って! ひょっとして・・・・・・!」
その優秀な頭脳で導き出された答えに、されど言葉は追いつかない。
「おや、お気づきになりましたか。まあ、ご安心ください。しょんべん用のものですので」
代わりにもたらされた男からの言葉に、先ほどまでの威勢はどこへやら、ミカエラの心はすっかり折れた。
「い、いやっ! や、やめてっ!お、お願いっ、トイレになんてなりたくないっ! ねえ! 謝るから、や、やめましょ? ね?」
こびへつらうような手のひら返し。その表情に、男も優し気な瞳を向け、
「やーだ」
ミカエラの目から、一筋の涙がこぼれ、その瞬間をもって、憑依の刑が執行された。