年明けは大掃除から! 前編
🕑 Added 2021-01-23 05:00:00 +0000 UTC
「センパイ、あけましておめでとうございます。」
「おう、アヤノ、来たか。おめでとうな。」
「はいっ!…それにしても、センパイ、こんな汚い部屋で新年を迎えたんですか…?」
「言うな、だからお前を呼んだんだろうが。」
「ええ…」
大学生の良太は、新年早々、後輩のアヤノに会えないかと誘われ、自分の家に来るかと誘った。
二つ返事でオッケーを出したアヤノだったが、新年早々向かってみれば、案の定これであった。
「…いや、分かってましたよ?センパイは女の子が遊びに来るくらいで部屋を片付けたりしないですよ、変に片付いてたら、それこそ先輩の身に何かあったんじゃないかと心配になるくらいです。」
「変な信頼だな。まあ、その通りだが。あと、片付けないんじゃなくて片付けられないんだよ。俺だって女子を家にあげる時くらいある程度きれいにしたかったし、新年をすがすがしい部屋ですがすがしく迎えたかったさ。」
「これで?」
「これで。」
曰く、良太はこれでも、ごみはあらかた出し終えた後らしい。確かに放置しておくとやばそうな生ごみや燃えるごみは、アパート下のゴミ捨て場にすでにエスケープがすんでいる。
以前アヤノが訪れた時よりましになっていたのも事実であり、カタツムリなみの成長がみられている、と、最大限優しく解釈するアヤノだった。
「さあて!かた付けますよ!」
「頼む、正直こっから先は俺には荷が重い。このフロアをどう攻略していいかまるで分からん。」
「そんなかっこいい言い方するレベルじゃないです。ゴミ出しはできるようになりましたけど、まだまだほこりとか残ってるじゃないですか。洗濯物もたまってるし。掃除機と洗濯機、今日中にやっちゃいましょう。」
「お、おう。」
良太の住むアパートは、はっきり言ってごみだめだ。片付けられない性分の良太、たまにこうしてアヤノが家にやってきて掃除をしてくれる。
これで付き合っていないというのだから、二人して不思議な関係である。
だが、本当に不思議なのは、この二人の関係というよりも…
「じゃ、さっさとやっちゃいましょう。センパイ、例のお札、持ってます?」
「ん、ああ。実家から借りてきてるけど…いいのか?」
心配そうに、今一度確認を取る良太。しかし、一方のアヤノは何をいまさらといった表情で、
「んもう、センパイ、ここで私が嫌って言ったらどうするんですか?この部屋、掃除機も洗濯機もないんですよ?大丈夫です。二回目ですから。」
「そ、そうか。いや、俺が頼んでおいてなんだけど、いつもすまん。…じゃあ、貼るぞ。」
「はいっ、いつでもどーぞ!」
おでこを出したアヤノに、良太はカバンから出した怪しげなお札をぺたりと貼る。
「んっ」
「大丈夫か?痛くはないと思うが…」
「い、痛くはないですけど…この感じ、むずむずして、相変わらず慣れないですね…うっ、うくうっ…」
通常、掃除でお札を用意するなど、日本中どこを探してもそうそうお目にかかることはない。しかしながら現実に、アヤノの体に少しずつ、少しずつ、変化が見えてきた。
「んっ、首、伸びそう…っ」
「無理して声出さなくていいぞ、どうせ出せなくなるから。」
「んっ、ん、んんっ、んーっ、~~!」
伸びた首とは別に、アヤノの可愛らしい頭部は横長に伸びていき、目も鼻も一体化したと思えばあっという間に灰色に塗りつぶされ、確認ができなくなる。唯一口らしきものが横長に伸び、しかしそれも構造からか、下の方に隠れてしまった。
「~~!~~~!」
一方の胴体は、伸びた首とは対照的に、小さく、しかし確かな質量を凝縮したような、丸みを帯びた形になり始めた。ホース上に伸びた首のさらに下は、硬い胴体となり、その下に丸みを帯びた物体が付き従う。
そうして全体の変化が済んだところで、すべての部位が灰色に染まり、
(はあっ…はあっ…せ、センパイ…お、終わりましたか?)
「ああ、今のお前はどこからどう見ても完全な掃除機だ。」
掃除にやってきたアヤノは、確かに完全な掃除機の姿になった。
良太の家系は、さかのぼると何らかのお札をつかさどる一族であったという。もちろん現代では普通のサラリーマンが一族を構成しているが、その血筋のためか、たまにこうして不思議なお札を便利グッズのごとく用いることも多いのだそうだ。
良太の家に掃除用品が極端に少ないのも、それが原因である。
(ま、センパイならそのうちとうとう魔法使いになっても驚きませんけど、きゃっ、あううっ)
「ほう、軽口とは余裕だな。」
(待って…!コンセント、いきなり引っ張っちゃ、あううっ、やああっ)
「ふふん、これを今から、あのコンセントに差し込んでやる…あれ、どっちがコンセントだっけ。穴の方か?アヤノから出てるケーブルか?…まあいいや。」
このままアヤノと言葉攻めごっこをしていてもいいのだが、このままでは掃除が終わるどころか始まらない。
(ん、ああああっ、びりびり、びりびり来ますぅっ…)
「そ、そうか」
アヤノの感情が流れ込んでくる。人間にこんなことをしたら普通は逮捕では済まないが、アヤノの姿はどこから見てもただの掃除機。
いかに悶える声が聞こえてきてもただの掃除機である。
エロい声を聞きながら掃除機に興奮するわけにもいかず、
(ん…ひゃあああっ!?せんぱい!スイッチ入れるならいれるっていってください!)
「あ、ああ、すまん」
こうしてやっと、新年にまでもつれ込んだ大掃除が幕を開けたのである。