皮製品コールセンター 前編
🕑 Added 2020-10-31 01:12:04 +0000 UTC
「お電話ありがとうございます。こちらは、皮専門店、ヒューチャーヒューマンのカスタマーサポートセンターでございます。」
月曜の午前9時、今日も電話受付が始まる。
皮、それはとある植物を原料とした樹脂成分を、そのまま人の形に組み替えたもの。
それを着込むことで、本来の体格を無視して、どのような姿にもなることができる。それは、人種、性別、年齢などにも関わらない。大の大人が、小学生の皮をまとって成り済ますことも可能で、人類はついに、己の生まれ持った肉体からも解放されることになった。
ヒューチャーヒューマンは、そんな『皮』という商品を扱うメーカーの大手である。新しい分野にいち早く目を付け、ただの零細企業は数年で瞬く間に巨大化した。
しかし、自分の姿を変えるような代物。トラブルや違和感とは常に隣り合わせ。当然のように相談窓口も多く、電話対応の仕事はいつだって大忙しだ。
OLの三好(みよし)は、この仕事を始めてもうすぐ一年になる。ここを利用するお客はだれしも自分と違う誰かになろうとして、その結果トラブルに見舞われたのだ。皮の中には声だけでなく、身体に合わせた口調に変わるものもあり、対応は困難を極める。電話の声や態度で相手の状況を見るのが難しいのだ。
しかし、それでも三好はこの仕事を気に入っていた。どのような客であれ、自分ではない姿になって、三好に助けを求めてくるのだ。
他人の姿で、助けてほしいとすがってくる。そのシチュエーションが、なかなかに三好のツボを押さえていて、毎日毎日何かしらの興奮を隠しきれない。
「もし、そちらはカスタマーサポートのひとですか?」
「はい、カスタマーサポートセンターの三好と申します。」
「すみません、皮を着込んでしまったら、元に戻れなくなってしまったんですの。周りのものに皮を脱がすように申し付けたのですが、どうも彼らでは手に余るようで。申し訳ありませんが、何とかしていただけませんか?」
丁寧な口調。だが、言葉の端々に怒りのようなものを感じる。
(多分、本来は男のひとだ。それも口は悪いタイプ。皮に引っ張られておしとやかなお嬢様になってるけど…これはやばいかな。)
トラブルになれば下手な人員では逆効果。他の新人たちには任せられないと即決し、
「分かりました。わたくしが直接お伺いします。」
仕事として、あっさりと引き受けることにした。しかし、丁寧な口調とは裏腹に、三好の内心は真っ黒に染まっている。電話の主は気づくことはない。
これは企業のためじゃなく、あくまで自分の悦楽のために。
さあ、面白くしてやろうと、三好は相手の住所を聞きだした。
訪れたのは、豪勢な大豪邸…などではなく、あまりきれいには見えない、どこにでもある安アパートだった。
(ま、やっぱりそうでしょうね。)
そもそも、自分とは違う誰かになろうとするのだ。お嬢様にわざわざなろうとするなら、それはお嬢様に謎のあこがれを持っているはず。
となると、お嬢様からは程遠い、このような貧乏系の男だろうと、三好は推理した。
「それで、お友達の皆様の口車にのせられて皮を着込んでみたのですが、どうにもその皮が不良品だったようで、元の姿に戻ることができなくなってしまい…」
「そうでしたか、それはそれは、ご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした。」
推理はほとんど当たっていた。笑いを必死でかみ殺す。
きっと目の前のおろおろした女性は、ただのつまらない男なのだろう。しかし今は何の力もないか弱い女性になって、己の未来を不安視している。
そして、藁にも縋る思いで、とうとう自分にすがってきているのだ。
「…それで、わたくしを元に戻していただけるのですよね?」
「…ええ、すぐに準備に取り掛かりましょう」
地獄の門が、開かれた。
………
「あ、あのっ、言われた通り、衣服の類は全部脱いだのですが…」
「下着類もです。すべて、お願いします。」
「は、はあ…でも、さすがにそれは恥ずかしいと言いますか…」
「私も女で、お客様も今は女性です。同性だから恥ずかしくないです。」
「でも…」
「それにこれはあくまでも偽物の身体です。それに、言うことを聞いていただかないと、永遠に元の体に戻れませんよ?」
永遠に。と三好は強調する。
さすがに本来の体を人質に取られては致し方ない。観念したように、お嬢様は下着類のすべてを脱ぎ、一糸まとわぬ姿となった。
「ふふ、顔を赤らめて、可愛らしいですね。」
「っ、は、早く元にもどしてくださいまし!」
「まあまあ、この体で、そこそこお楽しみになられたのでしょう?」
「ふにゃっ、そ、それは…やんっ!む、胸をそんな風に揉まないで…」
下乳から持ち上げると、なかなかの重量を感じる。自分と比べても明らかに大きい。
偽物に、しかも男に負けたとなると、女性としては並々ならぬ悔しさもあるというもの。
「はあっ、はあっ、あ、ああっ、や、やめて、も、元に戻して…」
「女の快楽は、お嫌いですか?」
「そ、それは・・・やあっ…強烈すぎて…頭が変になっちゃいそうで…あん・・・だから、もう、いやぁ…早く戻して…ひぃっ、乳首撫でないでっ、んっ、ンっ…」
そういわれては仕方ないとばかりに三好は冗談をやめる。
そして、優しげな声でこういった。
「では、これよりお客様の身体と皮の波長を整えてまいります。」
「は、はい、よろしくお願いします。…え?整えるって…」
「おや、説明書をご覧になっていないのですか?元に戻れなくなった場合、一度その体と波長を合わせる必要があるのです。」
「は、はあ、そうなのですね。それで、具体的には何をすれば…」
心配そうな目をするお嬢様。
三好は少し濁った眼でその瞳をとらえ、
「ご安心ください。そのためにわたくしがいるのです。すべてわたくしにお任せください。」
「はい…」
具体的にどうするかの説明も聞かぬまま、素直に了承してしまった依頼人。
詐欺の常とう手段であることに気づくべきであった。