LGBTに優しい世界
🕑 Added 2021-09-10 01:07:11 +0000 UTC
竹内慎吾の場合。
「ん~~~~~、いい朝だ。体調も万全。天気も絶好のデート日和!」
太陽がさんさんと輝く青い空を窓越しに眺めながら、竹内慎吾は満足げに一人頷く。
いい朝だ、と堂々と嘯く割には、ベッドの傍の目覚まし時計は既に午後13時を指している。
とはいえ、試験期間明けの翌休日ということを加味すれば、これくらいのすっとぼけは看過されるべきかもしれない。
今日は夕方から、彼女と映画デートの予定が入っていた。
デートの後は、二人でレストランで食事して、その後、この部屋でお楽しみのイチャイチャタイムが待っている。
夕べもさんざん片づけに気を使っていたが、一応シャワーの後にも慎吾は部屋の中をチェックして回っていた。
所詮は家賃格安のボロアパートではあるが、かといって乱雑にしていて彼女に幻滅されたりゴキブリの一匹でも発見されたらムードが台無しだ。
折角のデート。
即物的なことだけではなく、愛しい彼女との甘い時間を完璧にしたいなんていうロマンチックな願望を抱く気持ちが、この青年にもあった。
チェックを終えれば、お気に入りのブランドの勝負服に着替え、髪をセットし、ひげの剃り跡もチェックする。
鏡の中では、やや釣り目で威圧的な風貌ではあるもののそれなりに整った面立ちの青年がにやりと笑みを浮かべていた。
肌はつるんとして、清潔感はばっちり。完璧だと自賛する。
そんな事をしている間に、待ち合わせ時間まであと1時間なんて事態に突入し、慌てて家を出て駅へと向かった。
ホームで電車を待ちながら、今日の軍資金や映画のチケットなど忘れ物がないかどうかをチェックする。
よし、大丈夫、映画やレストランの料金も余裕で賄えるだけの金額は用意している。
バイトを掛け持ちして、貯金額の0を増やすことも慎吾の楽しみの一つであった。
ここまでのわずかな情報からでも分かる通り、竹内という青年は日本に数多といる若者の中でも割と出来た部類に入る男子だった。
高校時代は野球部で肉体と精神を鍛え、受験勉強をこなし、それなりに有名な大学の経済学部に通っている。
大学に入った後も勉学に精を出し、テニスサークルに所属して青春らしい青春を送っていた。
そんな健全かつしっかりした内面と、やや強面ではあるが端正と言えるルックスから高校時代から女切れというものがない。
そんな彼の今の彼女は、通算で8人目。
特別遊び人のつもりはなかったが、気が付けばそんな数字になっている。
けれど、当時のどの彼女に対しても、決して誠意の無い態度を取ったことは無いつもりだ。
映画のチケットもチェックする。
「愛・フォルテシモ」とでかでかと掲げられたタイトル通り、いかにも女性向けらしい甘ったるい恋愛ものの映画だ。
ハッキリ言って、竹内一人だけなら存在すら知ることのなかった作品だろう。
それでも、彼女が見たいというならチケット代の出費なんてさほどのこともない。
むしろ、こういうのが見たいというのは、女の子らしくてとても可愛い、と竹内的には満悦だった。
うっかり隣で眠ったりしないように、事前に睡眠時間もたっぷり確保しておいた。
駅から町へ降りて、待ち合わせのカフェへ向かうと、今の彼女である今西織江がこちらの姿を見つけるなり手を振ってくれた。
茶色いロングヘアの良く似合う、気立ての良さそうな風貌の女子で、竹内はそこをとても好いていた。
竹内も時間にルーズな方ではなかったが、こういう待ち合わせの時彼女はいつも自分に先んじていた。
「ごめん、遅かったかな?」
「ううん、そんなことないよ。私の方がせっかちなだけ。」
そう言って柔和な笑みを浮かべるおっとりな彼女。
そうは言っても、そんなに自分に会いたくて来てくれたのかと、竹内はそのたび嬉しくなって、この子の為なら何でもしてあげたいという気持ちになった。
しばらくドリンク片手に談笑しつつ、上映時間の間際になって二人で席を立つ。
目的の映画館はここから目と鼻の先だった。今からでも余裕で間に合う。
映画の上映時間は150分とちょっと。
興味のある内容ならともかく、ほぼ3時間はちょっと長い。
「ごめんね、慎吾君にはちょっと退屈かもしれないけど。」
「そんなことないって!!!楽しみにしてたから、そんな事気にするなよ。」
「ほんと?ほんとだったら、嬉しいな。大学生の、彼氏と彼女の話だから、慎吾くんと見に行ったら、感情移入できるかなって。」
大好きな彼女に上目遣いでそんな事を言われたら、嬉しいやら困ってしまうやら。
今この場で抱きしめたい衝動に駆られながら慎吾は映画館へ第一歩を踏みかけた。
その時だった。
「あの、その…そこのお兄さん、ちょっといいかな?」
男性の声で呼び止められ、これから映画デートの男女はゆっくりと振り向く。
本当は、その時点で嫌な予感はしていたが、無視をするわけにはいかない。
慎吾の振り向いた先には、40代ほどと思われる小太りの中年男性が、慎吾の方だけを向いて汗を拭きながら作り笑いを浮かべていた。
その時点で慎吾は天を仰いで嘆きたくなったが、そんな自身の内面を押し殺して、「なんですか?」とおざなりな返答をする。
「あぁ、もしかして、お二人ともデート中だったのかな…もしそうだったらごめんね。とりあえず、ほら、これ…。」
見た目にはデート中以外の何物でもなかったはずの自分達に対して白々しくそう言いつつ、男性が懐から定期入れを取り出して二人の前に差し出した。
そこには『LGBT証明書 石田治夫 43歳』と書かれており、男性の顔写真もしっかりと貼付されている。
「協力、お願いできるかな?」
カップルを前にしながら、男の目は終始、慎吾の方だけを向いていた。
そんな視線攻撃の前に矢面に立たされながら、眉間にしわを寄せる慎吾。
けれど、そんな表情をすぐに振り払って、申し訳なさそうに織江の方を見下ろす。
「………ごめん、終わったら俺もすぐ来るから、待っててくれる?」
「……うん、私はいいけど……頑張ってね…?」
織江のその言葉にひどく後ろ髪を引かれながら、慎吾は男性の方へ歩み寄った。
「大丈夫ですよ。それで、俺はどうしたらいいですか?」
極めて事務的にそう尋ねる慎吾に、男性の表情は大いに華やいだ。
「おおぉ、そうかい?ありがとう。うーん、そうだね、この近くにビジネスホテルがあるからそこに行こうか。」
「はい。」
慎吾は頷き、石田という男に連れられてこの映画館から徒歩数分程度のビジネスホテルで男と共に休憩することを余儀なくされた。
───
LGBT保護法と呼ばれる法律が制定されたのは今から20年前のこと。
つまり、この法律は慎吾とほぼ同い年ということになる。
その趣旨は、性的マイノリティであるLGBTと呼ばれる人々の人権の保障、およびQOL(クオリティオブライフ)の向上にある。
それまではLGBTと呼ばれる、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスセクシャルの人々は、一般人からひどい差別を受けてきたと、慎吾は小中高と度々学んでいる。
一般の男性のように当たり前のように女性と交際し、結婚し、子供を持ち、家庭を作り、そんな幸せを享受することが難しい。
そんな不遇な彼らの幸福の一助になればと掲げられたのがこの法律だった。
ビジネスホテルに到着するなり、石田はさっき慎吾に向けたのと同じように、LGBT証明書を受付嬢に提出する。
「大人2人。」
一言そう言うだけで、嬢は金銭のやり取りも無く石田と慎吾の二人の為に一部屋提供してくれた。
二人揃ってエレベーターに乗り込むと、石田はウキウキとした笑顔で慎吾の全身を舐めまわすように視線をぶつけてくる。
「いやーーーーお兄ちゃんかっこいいね~~~~、さっきお店にいた時からずっと見てたんだよね~。」
「はぁ………そうですか………。」
適当な愛想笑いを浮かべつつ、適当な相槌を打つ慎吾。
決して不貞腐れた顔など浮かべてはいけない。折角の彼女とのデートに水を差されたからと言って。
それぐらい、LGBT証明書というのは強力な効果を持っていた。
LGBT協会からLGBT保護法に基づいて発行される、LGBT証明書。
これは文字通り、それを持っている人間がLGBTに属するという事を証明するものだ。
LGBTに対しては彼らのQOLの保証の為、国民は等しく彼らに対して相応の配慮を求められる。
例えばLGBTの人々がそのマイノリティな性欲を満たしたいのに、満たせる相手がいない。
そんな時に協力を求められれば、求められた側はそれに極力応じなければいけない。
絶対に応じなければいけないというわけではない。
例えば、今から親の葬式に出るなんていう人間に社会奉仕を求めるなんていうのは明らかに非常識な行為だろう。そんなのは許されない。
けれど、今から彼女とのデートなんていう浮ついた理由で、恵まれないLGBTからの救援要請を断るなんてこともまた許されない世の中だった。
「もう見ただけでわかるよ、細く見えてるけどいい体してるでしょ?お尻もきゅっと締まってて、可愛いねえ~。野球部かな?」
「あ……はい、高校まで野球してました。」
言葉と同時にさらっと自分の臀部を着衣越しに撫でてくる石田の生暖かい手の感触にも、慎吾は笑顔で応えていた。
「あ、シャワー浴びてきますね。」
部屋に入るなり、慎吾の方からそういうと、石田はいやいやと首を振った。
「そのままの方がいいんだよ、生の君の感触を嗅ぎたい。すぐ脱いでくれる?」
そう言われれば、慎吾としては足を止めるしかない。
どっちかといえば慎吾の方は相手に入念にシャワーを浴びてほしかったが、そういう配慮は向こうには無い様子だった。
石田の如何わしい視線の前で、慎吾は着衣を解いていく。
お気に入りのブランドシャツも、ジーンズも、こんな相手を前にして脱ぐ予定ではなかったのだが。
男の見立て通り、シャツをがばっと脱いでいくと、大きく膨れた大胸筋やくっきりとした腹筋の割れ目が露わになる。
確かに、慎吾はわりに着やせするタイプだった。
日焼けもあるが、元々浅黒い肌に鍛錬された筋肉がよく映えている。
ベルトを外し、ボクサーと一緒にズボンを乱雑に脱ぎ捨てる時には、石田の生唾を飲む音が聞こえたような気がした。
「脱ぎましたけど。」
LGBTの前で全裸を晒す行為に、慎吾はすっかり慣れてしまっていた。
そんな慎吾の表情などお構いなしに石田は浮かれて手を叩く。
「んああぁ~~~…たまんないなあ……顔も好きだけど、こりゃまたイイ体してるねーーー。モテるでしょ?男に。」
「うーん………まぁ………。」
慎吾としてはあまり認めたくない話ではあったが、確かに慎吾は月1くらいのペースでこんな風に男に声をかけられる。
児童保護の観点から、LGBT証明書によって奉仕を依頼されるのは16歳以上の人間になる。
中高一貫の男子校出身で、中学時代から巷のLGBTに青田買いされ、高等部に進学した途端声をかけられるなんていうのはよく聞く話で、慎吾もまたその部類にあった。
高校一年生になった途端、近所のお兄さんやおじさんに声をかけられる事が増えたし、友達の中には教師に証明書を提示されて奉仕をしたという者もいた。
だから16歳から、20歳の今に至るまで女性経験だけでなく、慎吾には男性経験もそれなりにあった。望んで得た経験ではなかったが。
ベッドに身を投げ出すと、同じく裸になった石田にのしかかられ否応なしに肌を重ねる。
「はぁ…はぁ…あ~~若い子の肌はやっぱりいいねぇ、瑞々しい匂いがして、肌もつるっつるで…!!!」
汗も流していない首筋に鼻先を押し付けられたかと思えば、脇の下や胸板を舌でべろんべろんと舐られて、思わず鳥肌が立ってしまっていた。
慣れているとはいっても、決して何も不満が無いというわけではない。
むしろ、この行為の後にシャワーが必須であった。
背後からかき抱くように密着しながら石田は慎吾のしなやかな肉体のあちこちを撫でまわしては、キスの雨を降らせていく。
「んちゅ…んむっ…ぶちゅっ…」
石田の分厚い唇は、今度は慎吾の胸板の上に浮かぶ突起にまで侵略していく。
敏感な部分への刺激に、慎吾はむず痒い感触を堪えながら歯をくいしばって耐えていた。
男の乳首なんか吸ったり舐めたりして、いったい何が楽しいのか慎吾にはさっぱり理解できなかった。
同じ乳首なら、柔らかくて、もちもちしていい匂いのする女の子のおっぱいを吸う方が断然楽しいのに。
前の彼女や、今の彼女のあれこれを思い出しながら、獣のように自分を貪る石田の与えてくる刺激を凌いでいた。
「慎吾くん、やらしい乳首してるねぇ…自分で弄ったりしてるのかい?」
「いやいや……んなこと、してないっすよ…っ…。」
しらばっくれたわけではなく、それは純然たる事実であった。
乳首の色が濃い目なのも、触れば簡単に尖りを見せるのも、全部石田を含めたLGBTの人々のせいだ。
やらしい乳首になったのは、彼らがあれやこれや弄りまわしたせいである。
そうでなきゃ、乳首で気持ちよくなろうなんて、そんな男らしくない感覚は慎吾にはない。
けれど、そうハッキリと吐き捨ててしまうのはLGBTへの配慮に欠けているため、出来はしない。
慎吾には理解できない感性だが、男の乳首好きはゲイの中では割とメジャーな嗜好のようである。
「はぁん………すごい、おいしそう……っ……。」
慎吾の両の太ももをがばぁっと開くや、石田は歓喜の声を上げた。
これまでの愛撫のせいで力を持った慎吾のものは、勃起としては7割がたといったところだろうか。
それでも、仮性の皮は自然と剥けきって、薄暗い赤を呈した亀頭の太いところや、カリ首、隆々と太った竿やそこに走る逞しい血管まで石田は血走った目に焼き付けるようにして凝視する。
今日のデートの為に事前に念入りに洗っていたため性器の匂いはやや控えめなのは石田からすれば逆に物足りなかっただろう。
慎吾としてはたまらなかったが、まさか抗議なんてするわけにもいかず、自分から両腿を抱え、中年男が自分の肉棒を味わったり、陰嚢をしゃぶったり、その下にある肉孔を指でいたずらするのも我慢して受け入れるしかなかった。
「じゅぷっ…じゅぷっぶっ…ぶぷっ……はぁ…おいしいよぉ……慎吾くんのノンケおチンポぉ……っ…お尻の穴も、ひくひく物欲しげにしてて、すっごく可愛いねぇ…っ…」
好きで動かしているわけではない。
性器への刺激で生理的な運動を繰り返してるだけの肛門を、男が自身の唾液に濡れた指でぐりぐりとほぐしてくるのを、慎吾は呼吸を大きくして受け入れていた。
今日のこれは、まだマシな方であった。
この行動からして、どうやらこの石田という男は、慎吾に対して男役、ゲイ用語でいえばタチをやりたいらしい。
慎吾が一番生理的苦痛を感じるのは、やはりこういう中年男性に対してタチを要求されることだった。
誰が好き好んで自身の若く逞しいものを、中年男の肛門に捧げたいと思うものか。
それでも、要求されればノンケとして応じざるを得ないのがなんともつらいところだ。
「あっ…ああぁ…っ……んあっ……ああぁっ……っ…。」
男の指の動きが段々と大胆になっていくのを、慎吾は身の内で感じながら切ない声を漏らしていった。
男のごつごつした節くれだった手で竿を激しく扱かれながら、肛門の中の敏感な粘膜、さらに腹裏のキモチイイスイッチをごりごりされると、男相手とはいえ、性感だけは強烈なものを与えられていた。
「いい声が出てるねぇ~…慎吾くん、相当慣れてるだろ?お尻の穴がもう、男を知ってる感じだもん。くそー、悔しいなあ。出来る事なら、高校時代の慎吾くんに会いたかったなぁ。」
男の声は、確かに内容通り狂おしい感情を感じさせるものだった。
高校生になった慎吾が初めて声をかけられたのは、それまで普通に通っていたプラモ屋の店長だった。
それまではただの気のいいおっちゃんだと思っていた店長に証明書を提示され、否応なしに肉体奉仕を迫られた。
実は小学生の頃から目を付けていた、と全く嬉しくない告白をされ、おもちゃ屋の店長だからか何だか知らないが子供にはよくわからないオモチャを使われたりとあらゆる形で嬲られた。
LGBT証明書を持つ者は、通常3人まで気に入った協力者を登録することが出来る。
その店長に登録された慎吾は、青春を謳歌する傍らでそんな店長の趣味に付き合わされることになった。
おかげで相手が何だろうが、肉体的刺激だけである程度快感を感じられるようになったのは救いと言えるのかもしれない。
「慎吾君…そろそろいいかい?挿入れるよおぉ?」
ベッドの上で四つん這いに這わせた慎吾のその細くも締まった腰をしっかりと掴んで、尻の割れ目に宛がった裏筋を擦らせる石田。
いいからさっさと終わらせてほしい。
そんな本音は口に出さず、慎吾は汗ばんだ笑顔を作って自ら脚を開く。
「は、い………いつでも、どうぞ………。」
はた目には、男のチンポが欲しくてたまらない淫乱に見えたかもしれない。
本人からすると、そんな事は決してなかった。
が、そんな慎吾に煽られた様子の石田は避妊具など使わずに自分の唾液だけで滑らせた慎吾の入り口に、宛がった太い切っ先を一気に挿入していく。
「んあっ…んはあっ…!!!あっ!!あああああっ!!!!!!!!」
肛門を大いにこじ開けられる痛みと圧迫感に、流石に慣れているとはいえ慎吾はシーツをきつく握りしめ叫んだ後はぎりぎりと歯を食いしばる。
乱暴と言えるほどに性急に根元まで挿入を完遂した石田は、慎吾と繋がれた喜びからか鼻の下を伸ばしたままそんな彼の肉孔の感触を楽しむようにため息を吐く。
「はぁ…はぁ…慎吾くんのノンケメス孔、おじさんが奥まで犯しちゃったよぉ…今、どんな気持ちだい?」
「んっ…はっ…んあぁっ…はぁっ…んんっ………っ…!」
聞きながらゆっくりと腰を前後させていく石田の動きに合わせて、くぐもった声を上げる事しか慎吾にはできなかった。
本当だったら、今頃は映画館で織江を並んでポップコーン片手に映画を見ていたかもしれないのに。
今、なんで自分はおっさんとこんなことをしているんだろう。
今の気持ちを正直に答えればそんなところだった。
けれどそんな雑念は、男の腰がいやらしくくねって、中の内壁をぐちょぐちょしてくるたび、掻き消えていく。
「んああぁっ…あっ…あっ…ひっ…んんっ…ぉあ゛ぁーーーーーーーーっ!!」
今日の相手は、慎吾からすれば確かにマシな部類であった。
根元から先っぽまで、肛門の中をぐっぽぐっぽと犯されて、熱く滑った粘膜を擦りたてられるともうまともな思考なんて維持できない。
高校生のガキの頃はぶっというんこしてるみてぇ、なんて色気の無い解釈で受け止めていた、肛門性交特有の性感を、慎吾も今は自覚してしまっている。
さらに石田の硬く膨れた亀頭は、まるで狙いすましたかのようにリズミカルに慎吾の前立腺の辺りをごつごつと刺激して、まるで頭の中に火花が散るような尖った快感が、慎吾の全身を支配していた。
端的に言えば、石田はテクニシャンな男だった。
慎吾のアナルを犯しながら、片方の手はなおも慎吾の乳首の尖りを指の腹で虐め続けるなど、なかなか徹底した性癖をしている。
そんな石田に向かって、慎吾自身も自ら掲げた尻を前後に振り、少しでも強力な快感を求め続ける。
「はぁ、はぁ、そんなはしたなく、ケツ振って………慎吾くんっ……本当にノンケかい?…ほんとはこっち側なんじゃないのぉ…?」
「あっ…んん゛っ!!…あっあっあっ…ああぁ~~!!あっ……!!!」
切ない嬌声を上げながら大きく被りを振るその様は、ただ懊悩しているようにも否定しているようにも、どちらとも見ることが出来る。
石田の言葉は、慎吾からすれば心外もいいところだった。
どうせ逃れようがないのなら少しでもマシな環境に居たい、というのは調教された者特有の思考だ。
男とセックスせざるを得ないなら、せめてそこから得られる快感だけでも多く享受しなければ丸損である。
それに慎吾のようなヘテロセクシャルからすれば、男とキスなんてさせられるぐらいなら、ケツを掘られる方が断然マシな行為だった。
過酷な地獄を彷徨っているところに、汚いけど飲めないことも無い湧き水を見つけてかぶりつく。
ホモセックスで得る快感は、慎吾にとってそんな存在に等しかった。
「ああ~~~~っ…あっ…あっ…ああぁっ!!!!!!!!!!!」
後ろを掘られながら、激しく竿を扱かれると慎吾はあっけなく男の手管で絶頂を迎えてしまう。
前立腺での中イキに加えて、男の手の中で震えたイチモツからびゅるりびゅるりと、濃い雄液がシーツを濡らす。
真っ白なシーツの上でやや濁った白濁の種汁が、その濃度を示すように深い染みを作っていった。
「あはっ…あっ…ああぁっ……。」
自らの射精を終えた後も、慎吾は世を嘆くような吐息を漏らす。
石田もまた、自身の直腸内にたっぷりと種付けを終えたのを、中の熱でうっすらと感じたからだ。
「はぁ…っ…はぁっ…いいよぉ、慎吾くん…俺達、体の相性、抜群だね…っ……。」
ろくでもない感想をぶつけられながらも、終わったことにただ安堵の表情を浮かべる慎吾。
肩で息をしながら時計を見れば、まだ17時を少し超えたところだった。
今から大急ぎでシャワーを浴びれば、映画の中盤ほどにはまだ間に合うはずだった。
折角の髪のセットもすっかり乱れてしまっていたが、今からでも楽しいデートの再開をやり直す心づもりでいた。だが。
「はぁん……慎吾くんがえっちすぎて、おじさんとっても収まらないよ…っ……!」
そんな言葉と共に突き出された石田の腰には、今しがた大量射精を終えたとは思えないほどギンギンと猛り狂った肉棒が聳え立って、慎吾の瞳に飛び込んできた。
「そ、そんな…っ……あの…俺…そろそろ、もう…っ………。」
汗ばんだ額に絶望の青を称えながら、か細い声を上げるも事態は決して慎吾の思う方には転がらなかった。
まさか、彼女とのデートなんていう浮ついた理由で、LGBTの人々の気持ちを傷つけることは出来ない。
石田は硬く締まった慎吾の片脚をしっかりと肩に抱え、舌なめずりと共に慎吾の肉の窄まりに切っ先を宛がっていく。
「う、うぅ…っ…うっぐっ………んはあぁぁあっ!!!!!!!」
今しがたたっぷりと雄汁を注がれたそこは、まるで当たり前かのように石田の欲望を咥え込み、慎吾の若い体はなおも地獄の快感を享受し続けなければならなかった。
───
織江からメールで指定された喫茶店の入り口に慎吾が顔を見せたのは、映画終了からさらに1時間後のことだった。
「ごめん、おまたせ………。」
待ち合わせに来た慎吾のあまりのやつれ具合に、織江は非難どころか心配の表情で思わず立ち上がっていた。
「だ、大丈夫?」
どことなく足取りもぎこちない慎吾の傍へ自ら駆け寄って、彼を案じる織江の表情に慎吾は申し訳の無い気持ちでいっぱいになる。
「だ、大丈夫…大丈夫……それより、ごめん。映画、一緒に見られなくて…。」
「そんなの全然いいけど、顔色悪いよ…?今日はもう帰った方がよくない?」
織江の言葉に慎吾は大きく首を振る。
ずっと楽しみにしていたデートの日だ。
何が何でも、食事ぐらいは一緒に済ませて帰りたい。
が、流石に夜のお楽しみの時間は取れそうにはなかった。
あれから4回も手を変え体位を変え、石田のものを咥えさせられただけでなく、鞄から出したオモチャの数々で搾るだけ搾られてしまった。
流石に今日のところは大好きな彼女相手とはいえ、出すものが一滴も残っていない。
「いやあ、折角の彼女とのデート中に、本当にごめんねぇ。」
そんな石田の言葉に、慎吾は作り笑顔で頷くしか無かった。
さらに、石田から協力者登録も受けてしまった。
これは前述のとおり、LGBT証明書を持つ者は3人まで性欲処理の協力者を登録できるというものである。
登録はアプリによって行われ、証明書所有者は登録した男性の住所氏名、連絡先を手に入れて必要に応じて活用することが出来るというものである。
勿論、相応の理由があれば必ずしも要請に応じる必要はないが、逆に言えば理由が無ければいつでもまた石田の相手をしなければならない。
それを思うと憂鬱だった。
これまでに出会った最悪な所有者に比べればまだマシな方とは言え、あの絶倫ぶりには参ってしまう。
ちょうどたまたま誰にも登録されていない状態だったのも仇になってしまった。
LGBTが登録する事の出来ない相手というのはいくつかあって、「既に誰かに登録されている人物」もその条件に入る。
なので、マシなLGBTに登録されているというのはそこまで悪い状態ではないのだ。
「慎吾君、無理しないでね。今日、ごはん私、おごるよ?大変だったもんね。」
上目遣いにそう言って自分を見てくる織江に、決して大げさでなく慎吾は癒された。
「いやいやいや!!!!!何言ってんだよ!!俺、丈夫だからこんなのなんでもねえよ!!!」
きゅんきゅんと自身の逞しい大胸筋を射抜いてくる可愛い彼女の言葉に、慎吾は頑として譲らなかった。
はぁ、自分はやっぱり女の子が好きだ。
可愛くって、いい匂いがして、優しくって、辛い事はいっぱいある世の中だけど、自分は女の子がいるから生きていけるのだ。
見栄を張って学生の身で予約したフレンチのコースは、やはりあまり喉は通らなかったけど、慎吾は目の前の彼女を大事に今後生きていくことを内心で固く誓っていた。
───
例のデートから数週間後。
試験の結果も自分なりにまあまあの出来で、気持ちも落ち着いていたころに携帯から連絡が入っていた。
すっかり頭から抜けていたが、それは例の中年男からのメール。石田からの連絡だった。
久々にまた会って一緒に遊びたいという石田からの連絡を、まさか無視するわけにはいかずにスケジュール帖と相談して会う日を決めた。
その日は、学校もバイトも、織江との約束も無い休日だった。
こうして、会う日時をこちらで指名させてくれる点でも、石田はまだマシな部類だった。
ひどい相手になると、彼女とのデート中に彼女の目の前でフェラチオをさせるなんて輩もいる。
彼女持ちの男にそういうことをさせるのが好きなのだとその男は豪語していた。
一刻も早く終わらせたくて、経験を駆使して野郎のザーメンを一滴残らず飲み干した翌日に、当時の彼女には振られた。
おっさんのチンポに嬉しそうにしゃぶりついている顔が脳裏に焼き付いて離れないというのが彼女の言い分だった。
慎吾からすれば理不尽極まり無い話だった。
誰がおっさんのチンポを好き好んでしゃぶるものか。
一刻も早く彼女の為にこの状況を逃れたいという一心でやったことだというのに。
それが織江より一つ前の彼女だった。
LGBTによる登録が何を理由にされて、何を理由に解除されるのか。ゲイの考えは慎吾にはわからない。
けれど、当時の彼女と別れた途端、例の男からの登録が解除された理由は慎吾にもよくわかった。
理由は1つ。慎吾が彼女持ちではなくなったからだろう。
そしてその空白期間のうちに今度は石田に登録されてしまった。
待ち合わせ場所のビジネスホテルに到着したのは、待ち合わせ時間から5分過ぎての事だった。
普段遅刻なんて絶対しないはずの自分がこんな体たらくな時点で自分自身の心情が伺えるというものである。
「遅れてすみません、石田さん。」
「いいんだよ、ちょっとぐらい。忙しいのにありがとうね。」
頭を下げる慎吾に、いやいやと手を振る石田。
それよりも、石田のすぐ傍らにいる二人組のことが慎吾には気になった。
そこにいたのは、石田と同じくらいの年齢の中年男と、これまた慎吾と同じくらいの20前後の青年だった。
真悟が何か言う前に、石田が咳払いの後続けた。
「ああ、こいつは僕の友達でゲイ仲間の高岡。で、そっちのその子は高岡の今登録してる、えっと…雄弥くんだっけ?」
言われた青年は、にこやかな笑顔で「ハイ」と頷いた。
真悟とはタイプは違うが、彼もまた容姿の良い青年だった。
くりくりっとした柔らかな髪の毛は天パだろうか、セットだろうか。たれ目が実に愛嬌のある優男だった。それでいて、なかなか上背がある。慎吾と同じく、スポーツ経験者かもしれない。
高岡と呼ばれた中年の方も、慎吾の事をねっとりと見やりながら「よろしく」と挨拶をしてきた。
「今日はこの4人で一晩楽しもうと思って。雄弥くんも、今年大学2年生なんだって!友達になれそうだね!ハッハッハ!」
石田の言葉と共に4人はハハハと和やかに会話しながら、石田のチェックインのあと、エレベーターへと向かう。
その間に、慎吾は雄弥青年に話しかけていた。
「お互い、大変だけど、頑張ろうな。」
自分と同じく、高校の頃から似たような経験をしてきたであろう雄弥に慎吾はシンパシーを感じていた。
雄弥の方も、それは同様のようで初めから慎吾に対して好意のようなものを抱いていたようだった。
「ふふふ、そうだね、大変だけどね。でも、社会奉仕のためだから、やりがいはあるよ。」
やりがい。
そんなことまでは流石に慎吾は考えなかった。
仕方なくやる人助け、くらいにしか思っていなかったから。
コイツ、良い奴そうだなあ。石田に言われたからというわけではないが、友達になれそうだと思った。
「それに俺、福祉系の大学通ってるから、こういうの断ると後々の査定に響くしね。」
そう言って、人懐こい可愛らしい笑顔で舌を出す雄弥に、慎吾はますます彼と友達になりたくなった。
前回よりも少し広めの2人部屋へと入ると、石田達中年の指示で、慎吾と雄弥はまだ出会ったばかりだというのに男同士で互いの全裸を晒し合う。
「はぁぁぁ、慎吾君もいいけど、お前の雄弥くんも、両方可愛いねぇ。慎吾くんが男前で、雄弥くんが可愛い系っていうかイケメンかなあ。」
「いや、全然イケメンなんかじゃないっすよぉ!」
「俺だって、別に男前なんかじゃないですって!」
「おチンポとキンタマの大きさは互角くらいかぁ?どっちも立派だねえ、ケツの穴も可愛いねえ。」
中年達の指示で、二人揃って同じベッドの上で四つん這いに這う慎吾と雄弥。
もっとよく見せろ、こっちを向け、と上から要求されれば、慎吾と雄也はほとんど同時に脚を大きく開いて腰を突き出し、締まった太腿とケツの双丘の間に備わった、肛門の菊からぷくっとした膨らみのその更に下で、ぶらぶらと揺れる玉袋や竿も男達の目を楽しませる。
「あ~~~良い眺めだ。ノンケ君達のこんな光景がタダでこんな簡単に拝めるなんて、ほんとに良い世の中になったよねえ。」
「そうだねぇ、これからももっともっとLGBTに優しい世界になってほしいよ。政治家には益々頑張ってほしいね。今度選挙行かなきゃ。」
青年2人の背中から携帯カメラをばしゃばしゃと光らせつつ、仲良く歓談する中年達。
そんな下で、慎吾と雄弥は互いに顔を見合わせて苦笑する。共感しあうことで、共にこの羞恥と屈辱を紛らわせていた。
「ほーら、二人とも、ピースピース!!笑顔も忘れずにね!!!!」
「は、はぁい!!」
「こぉでいいっスか?はは…っ……。」
自分のケツ穴を開かせながらのピースまでも写真に取られ、その笑顔はどこかうつろなものだ。
まるで中年達に見えない首輪とリードを付けられているかのような、若い男達2人の前で、石田達はまずどちらから頂くかを決めるじゃんけんを始めていた。
どっちでもいいから、さっさと終わらせてくれよ。出来れば穏便に。
そんな中年男達の会話など耳には入らず、慎吾はただただ、次に織江と会える日の予定を思い起こして、懸命に心を殺していくのだった。
───
LGBTに優しい世界 竹内慎吾の場合 おわり